ほとんど記憶のない女
ほとんど記憶のない女 / 感想・レビュー
紅はこべ
訳者解説で、リディア・デイヴィスがポール・オースターと付き合っていたことを知ってびっくり。オースター、あんまり得意じゃないんだけど。この中では異色の「ロイストン卿の旅」面白かったけど、結末、つくづく事実は小説より奇なりだ。
2022/01/02
めしいらず
帯に「ちょっとひねくれたあなたに贈る」とある。最初の3編を読んで虜になった。ある命題をどんどん噛み砕きながら執拗に反復するお笑い的手法。言葉のリズムの心地良さ。そこに皮肉はあるけど教訓はない。名前すら与えられらぬ主人公たちは、「私」という肩書きを持つだけの記号のようで、与えられた条件に知らないうちに自分を擦り寄せてしまう、自我という確固とした拠り所を持たぬ存在。「フーコーとエンピツ」「認める」「俳優」「この状態」「自分の気分」が好み。特に「この状態」の淫猥な想像を掻き立てる書き振りと、最後のオチの面白さ。
2017/05/15
まさむ♪ね
作家がポール・オースターの元奥さんっていうのと、マグリットの表紙が気になって。51もの話を収めた短編集。そのほとんどが数頁、短いものは数行のものも。一つ一つの話が心を様々の色のざわめきで染めていく。あの名手コルタサルに出会ったときと似た衝撃。とらえどころなく静かにでも力強く深くえぐるような筆の冴えは、わたしの頭の中をぐりぐりと掻き回す。癖になりそうだ、リディア・デイヴィス。もっと読みたい!と思ったけど、短編集の邦訳は今のところこの作品のみ・・・岸本さん、次の翻訳待ってます。長編『話の終わり』を読みながら。
2015/04/29
愛玉子
なんとなくユアグローの『一人の男が飛行機から飛び降りる』みたいな作品かと思っていたが、かなり印象は違う。あちらがポップでクールで男性的なのに対し、こちらは女性的でしっとりとした感触がある。しかし、メモに書き散らした断片のような文章でありながら、想像力がやたら刺激されるところは似ているかも。『サン・マルタン』の男はポール・オースターがモデルであったことにも驚愕。それにしても岸本さん、へんてこな文章を訳したら並ぶもの無しだな。そこが好きだけど。
2010/01/20
きゅー
登場人物の感情描写が極端に少ないが、それが冷淡にならずに、事実の描写をもって彼女たちの細やかな不安や怖れが語られている。典型的なのが「大学教師」。カウボーイと結婚したいと空想する大学教師が登場するのだが、その様子はリディアがインタビューで語っている「私が興味をもつのは、つねに出来事よりも、その裏で人間が何を考え、どう意識が動くか、そのプロセスなのです。」という姿をそのまま写しているようだ。行為そのものではなく、それに対する反応に興味を持つ彼女らしい作品となっている。声高ではない、こういう短篇集も心地よい。
2012/07/15
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