文盲 アゴタ・クリストフ自伝
文盲 アゴタ・クリストフ自伝 / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
『悪童日記』で有名なアゴタ・クリストフの自伝。再読でも初めて読んだ時と同じような衝撃を感じた。母国語のハンガリー語ではなく、フランス語で書かざるを得ない彼女の悲しみを、日本人の私は半分も理解できない気がする。敵語であっても、書きつづける彼女のような人物こそ、生まれついての作家なのだろう。アゴタ・クリストフの書く文章は短くて、ぎこちないところがある。それでも詩的に凝縮された表現が多く、鋭い。文は人なりの言葉通り、この文体は彼女の過酷な人生から生み出されたものだ。
2016/07/22
どんぐり
1956年のハンガリー動乱で、祖国を脱出しスイスに亡命したアゴタ・クリストフの自伝的エッセイ。「わたしはフランス語もまた、敵語と呼ぶ。別の理由もある。こちらの理由のほうが深刻だ。すなわち、この言語が、わたしの中の母語をじわじわと殺しつつあるという事実である」――祖国を失うことは母語を失うことでもある。亡命先でフランス語を習得し、『悪童日記』『ふたつの証拠』『第三の嘘』の三部作を発表。人はどのようにして作家になるかという問いにアゴタ・クリストフは答える「自分の書いているものへの信念をけっして失うことなく、辛
2014/07/14
mura_ユル活動
亡命ということはどういったことかということは当然体験もないし、身近で話すこともないため、感覚的に理解できない。しかし、幼いころからの言語が使用できなくなる(通じない)という、言語は単なる意思を伝える手段だけれども、それよりも身体性を伴う文化的等側面も持つので、とても厳しいことは理解できる。幼少期はものを読まずにはいられないという不治の病に。「敵語」と呼ぶ、なじまないフランス語で執筆、それは彼女にとって人生の「挑戦」。強い信念を感じる。90ページ前後で、読みやすい。
2016/10/22
tama
図書館本 アゴタシリーズで こんなに「量が」少ないとは思わなかった。しかし「文盲」という原典のタイトルそのものの意味がとんでもなく重いことを知って驚いた。幼い頃から文字を読むこと書くことが大好きだったのに、ソ連支配後、両親・兄弟全て捨てて難民家族として不法出国し、全く馴染みのない外国で(最初は会話さえできない)暮らすゆえに「文字を読むことも書くこともできなくなった」。読み書きの勉強を始めようとするきっかけは切実。
2015/08/06
metoo
悪童日記、ふたりの証拠、第三の嘘、と読後に衝撃を受け、物語に著者の何が投影されているのか尋ねたくて自伝「文盲」を手にした。ハンガリーで生まれ、動乱の21歳の時に夫と4ヶ月の娘と祖国を離れオーストリアへ、そしてスイスへ。国を喪くし言葉を喪くし家族と離れても、書くことで辛うじて自分を喪わずにいられたのか。母国語ではない言葉で。専門教育を受けていない著者だが、18歳まで過ごした貧しい寄宿舎でお小遣いを稼ぐためにシナリオを書き即興寸劇をして成功させ、ストーリーテラーの片鱗を見せる。
2017/01/24
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