ダンシング・ガールズ: マーガレット・アトウッド短編集
ダンシング・ガールズ: マーガレット・アトウッド短編集 / 感想・レビュー
アカツキ
不穏な空気に胸がざわつく6作の短編集。「火星から来た男」は実際のストーカー体験談かと思うほどリアル。人の良さにつけ込まれる主人公、男の気持ち悪さ、女友達の反応、男友達の見る目の変わり方…。ゆるい母親とは違い、警察がしっかり対応してくれたのが救い。好きなのは、真に迫る妄想を抱える初老女性の「キッチン・ドア」と、航空機事故で現実感を取り戻す女性ライターの「旅行記者」。
2020/01/05
mawaji
釈然としない、漠然としたなにか不安のようなものが残る感じのする6つの短編、堪能しました。「みんながジョーダンの前で、彼女が何も聞こえないかのようにしゃべるのが嫌いだった」というロブの態度は医師の素養があるでしょう。「物理」療法士はやはり「理学」療法士かと思われますが30年前はこの言葉はまだ日本では普及していなかったのかも。世の中を”クリップ”と”ノーム”の二つの世界に分けるキャビンの男の子たちは心が片輪にcrippled insideなっているのかもしれません。「寛大さは単に臆病さの裏返しのように思えた」
2020/11/16
Ecriture
岸本佐知子訳。1977年のAtwoodの短篇集より6作品を収録。表題作「ダンシング・ガールズ」はショッピングモール建設などの都市デザインが必然的に持ってしまう排他性を、留学生の集まるアパートという設定を通して描く。「私のアパートはいろんな国からの留学生を受け入れてるんだ!」という大家の態度が実のところ現代の「ノアの方舟」であり、他国の文化を支配しようという欲望が潜んでいることを明らかにしている。主人公アンは、都市デザインが残酷な「人間デザイン」でもあり、予め失われた楽園を求めることだと気づく。
2011/06/15
くさてる
「こういう書き方があるんだ」と眼を開かされたような短編集。どの作品も大きな事件は起こらない代わりに、落ちつかなくなるような不穏な空気が満ちている。訳者あとがきが秀逸な評になっているのだけど、そこにあるように、釈然としないなにか不安のようなものを残すくせに、読んでいるうちにはそんなことを微塵も感じさせない。人間の心理の綾を描くのに、こういう方法もあるのだと知った。いちばん印象的だったのは、初老の女性がふっと胸に抱く不安な意識の渦のようなものを描く「キッチン・ドア」。
2011/12/14
よしあ
分かりやすい話が多く、ある意味安心した。趣の異なる短編だけど、それぞれの主人公は普通の感覚の人だからかな。普通だからこそ持つ違和感が、ぞくっとするのか。日常の中の不安感というか。
2023/03/02
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