木立ちの中の日々
木立ちの中の日々 / 感想・レビュー
かんやん
中短編集。表題作は、田舎から出て来た老いた母とパリで自堕落に暮らす息子の会話から、悲劇的状況が浮かび上がる。一転、『ドダン夫人』は、ユーモラスで少々尾篭でもあり、この作家の意外な一面を知ることが出来る。しかし、ガミガミ屋の門番のおばさんと道路清掃人の関係は同じく、悲劇的な行き詰まりを予感させる。『工事現場』のホテルで知り合う男女が「共犯関係」と表現されているが、それは前二作の母息子、門番と清掃人も同様であり、著者は、どこかに出口を求めるような、息の詰まるほど濃密な二人関係のドラマに惹かれている。
2019/07/10
solaris
竹を割ったように分かりやすい東野圭吾の文章から、緩く、霧のように空間的で、散々とした叙情文。若い頃は貧乏に暮らしたが、いまや町工場を経営するまでに成功した老女が末の息子と同居人に会いに来る話。息子は意気地がなく、社会に適合できず定職に就けていない。親子であることに前提はない。老女と息子が交わす一晩の物語。「彼は、貧乏なころの、疲れを知らぬ大食家だった彼女を知っていたが、財産ができてからも、彼女は相変わらずなのだった。彼はそのことに、あるわびしい誇りのようなものを感じた」こんなゾクゾクするような小説は少ない
2016/11/27
akubi
【木立ちの中の日々】 悲しみと喜びが、同時に在る。愛と憎しみが紙一重であるように。 取り繕われた優しさが、行き場をなくしてぽつねんと浮かんでいる。 寂しい。可笑しい。 暗闇の静謐の中で目を輝かせ、太陽の前では不甲斐なく微睡む。 深く深く奥底を覗くのがこわい。だから絶えず働き、読み、観るているのかもしれない。 自分を守るために。深淵を覗くのを、避けるように。 『五年ぶりで息子に会ったっていうのに、いちばんしたいことは布巾を縫うことなんだからね。』 『ほんとうにわたしたち、ちぐはぐですわね。』
2020/04/08
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