最後の物たちの国で
最後の物たちの国で / 感想・レビュー
市太郎
荒廃した国に住む一人の女性の手紙。ここでは、大事なもの、どうでも良いもの、憎むべきもの、何もかもが消えて行き、忘れられていく。一度この国に足を踏み入れるとここから出ることは出来ないという。この手紙はこの国に生きるただの一人の女性の半生を綴ったものであるに過ぎない。もしかして多少は他の人より運が良いのかも知れない。多少は波乱に満ちた人生かも知れない。だがこれはごく一般人によるただの手紙だ。こんな国で生きる気力を常に保つことは難しい。暗い世界観は心に重くのしかかる。それでもこれは希望の書物である。
2014/02/22
冬木楼 fuyukirou
陰々滅々な物語。行方不明の兄を探しに周囲の人たちの反対を押し切って街に来たアンナ。街の秩序は崩壊していて、兄も見つからない。街の暴力的な混沌の中、たび重なる幸運で生き延びた手記。 読んでいて、今のイラクとかシリアの混乱が頭をよぎった。 今まで読んだポール・オースターの作品は、暗い話でも登場人物が脳天気な明るさなのですらすら読めたのに、この本はかなり手間取った。語り口が女性だから現実的過ぎるのかな?日々をどう生きるかが細々と書かれていて苦しかった。 訳者は最後を「希望」と解釈しているけど私はそうは思えない。
2017/03/17
taku
現実の出来事を抽象化した世界だと感じながら読んでいた。オースター自身、インタビューで「これは現在と、ごく最近の過去についての小説だ。」と語っている。現実世界はこれからも大事なものを失なっていくだろう。言葉はそれを留めておける、消失に抗えるということなのかな。冗長やダルさを覚えても、気付けば没頭しているというのが私のオースター評。その点で実にオースターらしい小説。
2019/07/10
Acha
オースターって「何かとにかくスタイリッシュ」とか「何かとにかく人気がある人」なイメージで、いまだに憧れ読みしてしまう。そのくせ今更感もあってなかなか手を出さず気づけばこんなにも時が流れていた。知人が一番好きだと挙げていた作品ですが・・・これ・・・暗い。そして寒々してて、さらに謎だらけ。それでもいつの間にかその世界に慣れてきたところで、ラストの不意に虚ろな明るさに、今自分だけ取り残された気持ちになってる。・・・そうだった。オースターって「喪失」だった。そんなことも忘れてた。思えば遠くへ来たものよ。
2014/01/21
もにやま
苦しい日々の中で感情を失ったような語り口が印象的。とにかく灰色、灰色灰色…灰色のイメージ。
2018/03/03
感想・レビューをもっと見る