鍵のかかった部屋 (白水Uブックス 98 海外小説の誘惑)
鍵のかかった部屋 (白水Uブックス 98 海外小説の誘惑) / 感想・レビュー
のっち♬
ニューヨーク三部作三作目。美しい妻と原稿を残して失踪した友人を追ううちに「僕」は次第に自分自身を見失っていく。読むことが生み出す"そこにいて、同時にそこにいない他人"との関係を追求した点で前作との対称性が浮き上がる一方で、書き手と一体化することで共通性も浮き上がる。三部作の位置づけを明確化し、締め括るのに相応しい作品と言えよう。著者にとって自分と自分自身・他者を隔てる乗り越え難い壁(あるいは穴)や孤独感を表現するのに書物の持つ往還性は格好の装着だった。取り憑かれたような筆致や展開も大いにシリアスで魅惑的。
2022/03/03
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
そんなイカれた男は放っておいて地に足つけて生きましょう、貴女はそう言うけれどどこからが自分だったのか、もはやよく分からない。 "すべての人生は不可解なのだ"幽霊をおそれて潜んだミセス・ウィンチェスター、君の気持ちがよく分かる。もはや死んでいるべき男にとらわれて都会の片隅に吸い込まれる僕の自我、そんなものはきっと初めからなかった。"われわれはみな物語を聞きたいと思っている" さあ、お望みの物語をさしあげましょう。
2020/08/30
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
探偵小説のスタイルで《自己》の内面を探求する【ニューヨーク三部作】の最終章。気鋭の批評家として《書く》事を生業とする男が一通のメッセージを受け取る。失踪した友人から「遺した原稿を託すので可能なら出版してほしい、出版で得た金は妻と分け合ってほしい」と。原稿の出来は素晴らしく少なくない金を生み、美しい妻の愛情まで得た。しかし、死んだと思われた友人から手紙が届き、主人公の生活は狂い始める……。信じていたものが喪われていく緊迫感と恐怖。自己と他者との境界がスライムみたいに崩れて、ゆっくりと内側から壊れていく……。
2015/08/15
藤月はな(灯れ松明の火)
今までのNY三部作は監視/注目していた相手とアイデンティティが混じり合い、相手自身になってしまう不安定さを描いていた。憧れ続けていたファンショーの伝記を書くために生い立ちを追う内にファンショーになるのかと思っていた主人公。しかし、彼は結局はファンショーにならなかった。もう、彼にはファンショーを通じて知り合えたソフィーという「自分」をつなぎ止めてくれる大切な人がいたから。人はその人自身を愛してくれる人がいる限り、「誰か」の代わりになんてならない。それを分からずに自家撞着に陥ったファンショー、お気の毒様。
2017/07/19
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
☆5.0 美しい妻と傑作小説の原稿を残して失踪した友人の行方を追う「僕」。 自己とは? 友人は「僕」であり、また「僕」は友人でもある。 読んでいる私が、本の向こう側に存在するのか、それとも書いているオースターがこちら側に存在しているのか。 「何が本当で、何が本当でないか」、それはわかりはしない。 それ以上うまい言い方を私は思いつけない。 いつものオースター節で緊張感あふれるストーリーが展開していく。
2021/02/26
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