聖なる酔っぱらいの伝説 (白水Uブックス 110 海外小説の誘惑)
聖なる酔っぱらいの伝説 (白水Uブックス 110 海外小説の誘惑) / 感想・レビュー
どんぐり
放浪のユダヤ人作家といわれたヨーゼフ・ロートの三篇。表題作は、ルトガー・ハウアー主演で映画化されている。映画はずいぶん前に観ているが、記憶はすっかり薄れている。セーヌ川の川岸で暮らす宿なしで飲み助のアンドレアスのもとに、「200フランを受け取ってもらえないだろうか」と立派な身なりの紳士が訪れる。これを機に幸運が舞い込んだかのような小さな奇跡が次から次と起こる。彼にとっての至福の時は、酩酊できる酒のある日々だった。
2014/01/23
蘭奢待
3編からなる短編集。どれも諧謔に満ちていてかつ物悲しい。特に「皇帝の胸像」にはしんみりさせられる。作者自身ハプスブルクの統治時代に生まれ、敗戦による帝国解体に接している。妻は精神を害し、台頭してきたナチスのG4作戦により命を絶たれた。作者は酒へと逃れ、望んで命を縮めたようなこともあるだろう、45歳にしてナチスに侵攻されたフランスでこの世を去った。作品同様に作者の人生のなんとも言えない遣る瀬無さ。他の作品にも触れてみたい。
2020/02/10
jahmatsu
飲んじゃった帰りに、古本屋でこんなタイトル見つけたら迷わず即購入。ジャケ買い、しかしこれがなかなか素敵なストーリー、ラストも良い、飲み助万歳。他の2編も全く違うテイストだったが味わい深い。
2017/09/29
ポテンヒット
表題作はセーヌ川の橋の下で暮らす主人公に訪れるちょっとした幸運の物語でお伽話のような展開だと思ったが、訳者あとがきを読むとこれは著者の話なんだと分かり、切なくなった。「皇帝の胸像」は、戦争を経て時代が変わり今までyesだったものがnoになる。その波に乗れない(乗らない)心情がまた切ない。同時に、国家とは、民族とは何かを考えさせられる話でもあった。
2023/03/02
kaze
いい話だった。表題作も良かったけれど、3編目の「皇帝の胸像」がしみじみと感動的だった。モルスティン伯をバカにする新しい世界の支配者たちは、大切なものを見落としている。世界大戦によって変わったのは世界の切り取り方だけで、民衆は何も変わらないのだ。新しい支配階級はかつて皇帝がもっていたような敬意の対象足りうる「尊さ」のようなものを備えておらず、世にモメごとの種は尽きまじ。胸像を埋葬する場面は何度読んでも涙が出ちゃう。
2022/12/20
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