ある家族の会話 (白水Uブックス 120 海外小説の誘惑)
ある家族の会話 (白水Uブックス 120 海外小説の誘惑) / 感想・レビュー
buchipanda3
イタリア人作家による家族小説。末娘の著者が戦前から戦後ずっと見つめ続けた両親や兄姉たちの姿が描かれる。中でも雷声の父親と楽観主義な母親が強烈で、二人の生きた言葉の掛け合いが徐々にツボにはまって愉しさに包まれた。家族は反ファシストであることから理不尽な事が降りかかるが、それを越える生きる力に溢れていて、みんな別個に暮らしてもあの両親の家族なのだなと。家族でしか通じない言い回しってある。それで満たされた堪らない家族の物語を読めた。そして淡々としているのに読む内に家族への愛情を深く感じさせる文章も魅力的だった。
2022/09/20
アン
イタリアの女流作家の自伝的小説。山歩きを愛する厳格な大学教授の父親、朗らかで詩や音楽が好きな母親、個性的な5人のきょうだい。その末娘の鋭い観察眼と洞察力によって、様々な機会における会話を軸に据え、ひとつの家族の姿が描き出されます。時代は過酷な第二次世界大戦前後で、地下運動の参加、亡命、投獄などファシズムの波に翻弄される日々。そのような暗い闇の中であろうと離れていても家族だとわかる数々の言葉。その言葉は生きた軌跡ともなり、個々が自立心を持つことで家族の強い絆を築いているように感じます。翻訳は須賀敦子さん。
2019/09/30
nobi
千切り絵の一つ一つの小さな紙片のように、家族と親戚知人たちの会話主体のエピソードが並ぶ。父親は大学教授、オリベッティ社の創業家や作家のパヴェーゼ等とも交流ある家柄であるのに、父の怒声、兄弟間の殴り合いの喧嘩…。と対照的な母親と末弟の明るさ。禁欲的に事実だけが例えば家族の連行も親戚との行き来と同じ調子で描かれ、でもその紙片の積み重ねからファシズムが台頭した当時イタリアのユダヤ系の辿る運命が絵となって見えてくる。時に作家の熱い想い溢れる。パヴェーゼの自死に、ことばを取り上げられる苦しさに、母への愛情の由来に…
2020/05/16
どんぐり
第二次大戦下のファシズムが押し寄せるイタリアのトリノ。社会主義に傾倒する元軍医で大学教授の父親と母親、そして子ども5人のユダヤ系一家。その末娘のナタリア・ギンズブルグによる実名小説である。翻訳は須賀敦子。この時代の悲しくも酷い話しになるのかなと思っていたら、意外にも家族の日常が経年的に淡々と記されている。詩人で作家のパヴェーゼとの交流と自死について言及しているのが、発見。
2020/06/25
aika
戦争の悲しみに塗られた記憶だけれど、それだけではない。ファシズムの脅威がそこまで迫り家族が次々に逮捕されてもなお、子供たちをロバ呼ばわりする気難しい父親とおおらかな母親に囲まれた家族はまるで落語の小噺のようで、どこかふふっと笑いが漏れてしまう親子を思い返すと、やっぱり家族って一番強いんだな、と思います。ギンズブルクの自分を突き放して書かれた文体において、命を落とした夫レオーネと友人の作家パヴェーゼにまつわる記憶から滲んだ率直さは、他ならない、ギンズブルク自身の深い哀しみと愛情、そして追憶だと思いました。
2020/04/24
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