さくらんぼの性は (白水Uブックス 121 海外小説の誘惑)
さくらんぼの性は (白水Uブックス 121 海外小説の誘惑) / 感想・レビュー
U
犬女とジョーダンをめぐる、ユーモアと残酷と幻想にみちた小説。『灯台守の話』よりよみにくい印象で、途中からざっくりよみになってしまった。「彼らの口からとめどなくあふれ出た言葉たちが、堅固な鉛にはばまれて行き場を失い、屋根裏部屋に充満したために空気がなくなってしまったのだ。恋人たちは呼吸ができなくなって死んでしまったが、翌日番人が小さな扉を開けると、言葉たちは彼をなぎ倒してわれ先にと外へ飛び出し、幾千幾万の鳩に姿を変えて街のかなたへ飛び去っていったという。」この表現惹かれた。
2016/01/23
KI
時間という言葉のなかに潜んでいる「間」は拠り所だと思う。
2020/02/06
原さん
日本人である私は桜を日本らしいものだと思ってたので、さくらんぼが聖書にも登場する果物だと調べたら出てきたので驚きました。「祝福された者の果実」、「慈善」、「甘美」の象徴として、また別の意味で「受難」「犠牲」、も意味するようです。内容は時間の扱いを線状のものから、より現実にそぐわせる形に試行錯誤させながら、船乗りになった主人公の拾われた子供と、犬をやたら飼っている人なんか指先でつまんで殺せる拾った母親とを中心に、史実に基づいた展開がなされているようです。コミカルなのに詩的なところがあり、面白かったです。
2022/07/15
aoneko
過去、現在、未来、現実と幻想、歴史と寓話のあいだを揺れ動くうちに、だんだん重力を感じなくなる。恋の疫病とやらでバタバタ人が死ぬ変なエピソード、強烈な描写と表裏一体のナイーブさ、言葉の美しいけど跡を残す手触り、そのバランスに痺れる。あと、岸本佐知子訳の確かさに浸る。何効果かわからないけれど、ウィンターソンを読むと、バドニッツが読みたくなる。
2013/10/17
三柴ゆよし
時間と空間、現実と虚構といった概念の重力から解き放たれた小説。グロテスクでありながらも、目の覚めるような美しさに満ちた世界観。随所に挿入される寓話的エピソードが、物語に更なる深みを与えている。そしてなにより魅力的なのは象をも吹っ飛ばし、弾丸をものともしない破天荒な主人公ドッグ・ウーマン。これはちょっと岸本さん以外の翻訳では読みたくないな。
2009/05/04
感想・レビューをもっと見る