中二階 (白水Uブックス 122 海外小説の誘惑)
中二階 (白水Uブックス 122 海外小説の誘惑) / 感想・レビュー
青乃108号
やっと読み終わった。ちょっと読んでは他の本を読み始め、を繰り返して。でもやっぱり読みたいので貸し出し延長と借り直しをこれまた繰り返して。かれこれ2ヶ月。というのもこの本、ある会社員が会社で靴の紐を切ってしまい昼休みにドラッグストアで新しい靴紐を買ってまた会社に帰る。これだけ。本当にこれだけの内容なのに197ページ。細かすぎる描写としょっちゅう乱入して来る細かすぎる注釈。ツボにはまれば声を出して笑える。わかるわかる、って。ぱっと目にはつまらない会社勤めの1日も、ああそうか、こんな風に捉えれば何か楽しいって。
2022/04/18
いちろく
お昼休みにエスカレーターで職場へ向かう過程を描いた作品。作中で流れる実時間は、おそらく数十秒程度。その僅かな時間の中で繰り広げられる脳内思考の量に圧倒された。本編以上にメタ要素も狙っているであろう注釈の方が、文章量も多いし細かい点も特徴。個性的すぎる構成だけでも、実験的な作品として十二分に楽しめた。私は好き。
2019/06/25
zirou1984
ゆく意識の流れは絶えずして、しかも元の思考にあらず。20世紀における重要な文学技法「意識の流れ」は本作にて換骨奪胎され新たな手法へと転生する。つまり―意識ダダ漏れ。オフィスの中二階へと繋がるエスカレーター、主人公がそこに乗っている間に頭の中を駆け巡ったものを小説化したそれは、靴の紐やトイレの設備、日用備品の細々とした事物ばかり。しかし、誰もが見ているはずのものを、脱線に脱線を重ね、時に注釈が本論を食ってしまう様な誰も見たことのない語り口で描いてしまうのが見事なのだ。それは現代の孤独を諧謔的に笑い飛ばす。
2014/09/05
nobi
「口に出されることも思考にのぼることも」なかったことを全て口にする。それを延々と続けて、偏執的な人物の思考のパロディとも見える。おかしみもあるし今までになかったという意味では目新しい。けれど「生活の有り様」への「哲学の実践」と言える?「人工世界」にそうしたスタイルを持ち込むと決めれば自動的に描けてしまうという気がしなくもないし思考の浪費とも映る。ただ、その人工的な風合いの中にふと機微を見せる。忍耐強く付き合った読者への褒美のように、最後作者の独特の読書世界を垣間見せる。他の本はいつか読んでみてもいいかも。
2016/08/06
けぴ
エスカレーターで中二階に行くまでのわずかな時間に男が考えたことを微細に描く。靴ひも、ストロー、牛乳の紙パック、ホチキス、自動販売機、ポップコーン、耳栓、シャンプー…。更に細かい脚注が本文を凌駕するほどあり、まさにナノ小説。翻訳するのが大変そうですが、流石、岸本佐知子さん、自然な文体で読ませてくれます。細かいことに拘る内容は彼女のエッセイと通じ合うところがあると感じた。
2024/07/20
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