イン・ザ・ペニ-・ア-ケ-ド (白水Uブックス 123 海外小説の誘惑)
イン・ザ・ペニ-・ア-ケ-ド (白水Uブックス 123 海外小説の誘惑) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
1つの中篇と6つの短篇。やはり小説を読む楽しみという点では「アウグスト・エッシェンブルク」だろう。19世紀のドイツを舞台にしているせいかも知れないが、アメリカ文学というよりは、ヨーロッパ文学の苦さを持つ小説だ。初めて目にしたベルリンのプライゼンダンツ・エンポリウムの描写などは、新しい時代を迎える希望の輝きに溢れているが、それは既に凋落をも内包していた。アウグストがそれを疑うことはないが、私には人形制作が果たして真の意味での芸術だったのかとの問いを捨てることはできない。あるいは、それ故にこその共感だろうか。
2014/12/13
けんさん
『描写フェチが描き出す幻想世界と栄枯盛衰』 3部構成の中・短編集。 各部、趣の異なる作品が集められ、作者の多彩な才能が垣間見れる。特に第3部の幻想的で不思議な雰囲気の作品(短編3作品)は、独特の世界観に惹き込まれます! 他の作品も読んでみたくなる作家さんでした。
2022/12/12
ミツ
中編1編、短編6編の3部構成。ミルハウザーというと精緻な人工物に魅せられた幻想作家、という印象だったけれど、リアリズム寄りの作品や、ボルヘスやブラッドベリを彷彿とさせるようなノスタルジアや奇想に溢れた作品があり、その多彩さに認識を改めた。「アウグスト・エッシェンブルク」みたいな美と芸術を扱った正統派も良いが、鮮烈な自然の風景と描写される感情が生々しい「太陽に抗議する」「橇滑りパーティー」「湖畔の一日」も好み。表題作や「雪人間」「東方の国」では溢れ出る詩情と奇想の洪水にくらくらと酩酊するばかりであった。
2016/08/18
あーびん
19世紀後半のドイツを舞台に天才からくり人形師の隆盛を描く『アウグスト・エッシェンブルク』。その精緻を極めた作風は現代アメリカ文学っぽくなくて、よい意味で予想を裏切られた。おとぎばなしのように美しい幻想の中国を描く『東方の国』も魅力的。リアリスティックな短編もあったが、空想的な世界観の方が味わい深くて好み。
2019/03/26
志ん魚
第一部の『アウグスト・エッシェンブルグ』、第三部の表題作や『東方の国』などは、風化しかけた郷愁に色彩とディテールを与え、夢と現実とのあわいをたゆたうような「細密な幻想」に浸れる真骨頂的な作品だろう。第二部の女性を主人公にしたリアリズム短編群と対比させると、男のほうが子供っぽくて夢見がち? かどうかはわからないが、自分は案の定、『東方の国』にグッときたクチである。同じく幻想カタログっぽい『モルフェウスの国から』も是非読んでみたいのだが、未訳なのであった。
2011/11/09
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