供述によるとペレイラは… (白水Uブックス 134 海外小説の誘惑)
供述によるとペレイラは… (白水Uブックス 134 海外小説の誘惑) / 感想・レビュー
アン
1938年、ファシズムが台頭するポルトガル。小さな日刊紙の文芸欄を担当するペレイラは、政治運動に身を投じる若者らに出会います。レモネードとオムレツが好きで死別した妻の写真に語りかけるペレイラ。「供述によると」という言葉が繰り返されることで不穏な空気が漂い、独裁政権下で彼に何が起こったのか、政治的な主張を避ける一市民に過ぎない彼の内面の変化を読者は追うことに。悔恨への郷愁と孤独、信念と未来への想い。海洋療法の医師との会話が印象的です。最後に彼が取った勇気ある決断は力強く心を動かされます。訳は須賀敦子さん。
2021/04/05
青蓮
ファシズムの影が忍び寄る1938年のポルトガルが舞台。リスボンの小新聞社の文芸主任を務めるペレイラは、見習いとしてある青年を雇うことで、気付かぬうちに政治運動に巻き込まれ、次第に彼の内面も変化していく様を描く。時代背景の知識がほぼ無かったので、理解できるか不安でしたが楽しく読みました。ペレイラはいい人過ぎるし、否応なしに事件へ巻き込まれていくのが不憫。何だか息苦しい社会が現代の日本と重なるように感じました。この作品も良かったけれど、私としては「インド夜想曲」や「レクイエム」のような幻想的な作品が好きかな。
2017/07/28
nobi
隣国スペインは内戦状態で、ペレイラの住むリスボンも戒厳令が敷かれている。自由に物が言えない社会に不服はあっても「時代の邪悪なことどもについては、考えたくない」彼。妻に先立たれ友人もいない。仏作品を翻訳して担当する日刊紙の文芸面に掲載し、カフェで香草入りオムレツとレモネードを注文する。その地味な日常が変化してゆく。厭世的に見える思考に真摯な気持ちが立ち上がってくる。それでも時代に巻き込まれてしまうかに見えた、その彼が時代を作ってしまう。安全な世界に身を置いている私も生き方を見直すべきか、と思う程衝撃だった。
2020/07/24
どんぐり
1938年のポルトガルで、『リシュボア』新聞の文芸面の担当する記者のペレイラ。フランス文学を愛する中年男性で、助手に雇ったのが、政府への反革命を夢見る青年。徐々にこの青年に感化されて時の体制への疑問符がつのってくる主人公。精神科医との対話で、「あなたの主導的エゴを助けてやりたいとお思いなら、たぶん、あなたはどこかへよそに行ってしまうべきでしょう」と、示唆される。何も我慢することはない、あなたは未来にいつも可能性が開かれている。たった一人の抵抗を鮮やかに描いた作品。タブッキの著作をしばらく読むとしよう。
2019/02/28
syaori
作者は何と軽やかに爽やかに「まじめで、道徳的で、人間にとって基本的なテーマ」を提示することでしょう。舞台はファシズムが勢力を拡大する1937年のポルトガル。ペレイラは検閲や家宅捜索が平然と行われる現状を喜んではいないけれど、「手に負えない」難題に首をつっこむべきでもないと考える人物。そんな彼が自身のジャーナリストとして、人間としての良心と向き合い、また若者たち、「未来」のために世界と対峙するまでを丁寧に追ったこの作品は、”物語”ではあるのですが、私に人間というものを十分に信じさせてくれたように思います。
2020/09/21
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