踏みはずし (白水Uブックス 138 海外小説の誘惑)
踏みはずし (白水Uブックス 138 海外小説の誘惑) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
ミシェル・リオは初読。しかもこれまで全く知らなかった作家。訳者の堀江敏幸のラインから辿り着いたが、そうでなければ、おそらくは知らないままだっただろう。本書は本国のフランスではミステリーに分類されているようだ。たしかにそうなのだが、ミステリー・ファンには不満が残るかもしれない。なぜなら、謎が謎のままで残るからだ。読後の印象は、カミュの『異邦人』に似ているか。ただし、『異邦人』のムルソーが徹頭徹尾クールな無関心を貫くのに対して、本書の主人公の男(名前はない)の内面には、不合理な愛の渇望が秘められているのだが。
2015/01/24
(C17H26O4)
冷徹無比で一分の隙もない完璧な殺し屋。のはずだった。そんな男が踏みはずす。身の破滅を想像しなかったのか。殺した相手の妻と娘に惹かれたのが運の尽きだったのか。少女の無垢さに触れ情が生まれたのか。胸の奥にあった平穏な生き方への憧れに気づいてしまったのか。引き返すこともできたはずだ。そうしなかったのは男自身が望んでいたからに思えてならない。「踏みはずし」た原因は一見、奈落へ落ちる最後の出来事だけのように見えるが、そうではない。そこへつながる起点があり、道筋がある。孤独な殺し屋の哀しみと美学を見た気がした。
2019/10/18
新地学@児童書病発動中
哲学的な犯罪小説といった趣きの小説。殺し屋が主人公でたくさんの人が殺されるのだが、静かな雰囲気が漂っている。殺し屋が自分が殺したジャーナリストの妻の子供に見せる優しさが、殺伐とした物語全体と鋭いコントラストを作り出しているところが面白い。感傷を排して、客観描写に徹するところはヘミングウェイやハメットに似ているが、翻訳ではその文章の良さが完全に伝わっていない気がした。
2014/01/05
藤月はな(灯れ松明の火)
マッカーシー作品や初期の森博嗣作品『ドライヴ』、『サムライ』、『レオン』に代表される、フィルムノワールのような雰囲気に包まれた静かで静かな熱量が篭った作品。柵を持たずにシンプルに過ごすからこそ、一流だった殺し屋。そんな彼が踏みはずしたのは、当たり前のような感情と日常だった皮肉。会話文だけで進むブレモンへの尋問やマリーとの情事前が最高に痺れます。
2017/11/06
燃えつきた棒
最初の一歩から人生を踏みはずしてしまった僕のような人間には、なんともそそられるキラータイトルだ。 アクション映画にでも出てきそうな、めっぽう強くてかっこいい殺し屋が人間離れした活躍を見せる話。 薄くて読みやすいが、特に心に残るというわけではないとやり過ごそうとしたところ、次の一節に出会った。/ 【「ひとりの男が山道を歩いているとする。男はつまずき、断崖から墜落する。この事故が起きるために結びついた決定要因は、相当な数にのぼるにちがいない。にもかかわらず、墜落の原因がなにかと問われれば、→
2023/09/08
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