失踪者 (白水Uブックス 153 カフカ・コレクション)
失踪者 (白水Uブックス 153 カフカ・コレクション) / 感想・レビュー
のっち♬
故郷を追放された少年が、様々な出来事に遭遇しながら異国アメリカを放浪する。伯父には勘当され、ありついた職は失い、警察から追われ、彼はこの不条理な世界に対応した失踪者になっていく。次から次へと現れては去っていく風景や人物の描写もさることながら、十代の主人公の純真無垢さも魅力的で、それだけ正義への無力感や諦めも際立っている。財産も、身分証明書も、名前すらもなくし、社会から『軽やかな手でそっとわきへ押しやられるように消えていく』彼の姿は、人生と自己実現が相反する現実を映し出す。現代は終わりなき失踪の時代なのだ。
2017/12/07
白のヒメ
作者がこの小説の題名を考えた時、「アメリカ」という題名だったこともあるという。しかし、結局「失踪者」に落ち着いたとか。私としては「アメリカ」の方がしっくりくる。「失踪者」というと、どうしても何かから逃げている人というイメージを私は抱くのだが、別に主人公は逃げているわけではなく、ただ仕方なく放浪しているだけだからだ。主人公は若く健康だ。両親に捨てられ境遇は過酷といえ、その前途には希望がある。「城」「審判」と合わせてカフカの孤独三作だという。何故「孤独」なのか、他の二作も合わせて読んで考えたいと思う。
2014/12/19
こうすけ
個人的に、変身、審判と比べてめちゃくちゃおもしろかった。失踪者というか、失業者の物語。女性問題で、若くしてドイツからアメリカへ追い出された主人公。異国で暮らす所在なさ、むなしさが生々しく感じられる。全貌がわからないまま、そのシステムに取り込まれていくおそろしさ。迫りくるリミット、うやむやなルール、果たされない約束など、夢のリアリティー(矛盾するような言葉だが)が詰まった作品で、いやな冷や汗をかいたり、拍子抜けしたり、痛快だったり、楽しく読める。
2023/09/15
ネムル
カフカの長編は読んでる間面白かった気がするという漠然とした印象だけ残して、話の細部はとんと思い出せないのだが、この作品のユーモアは他の2作に比べてだいぶ陽性で、ドタバタしているように感じた。特に船やNY近郊の家でのやりとり、カール・ロスマンが動けば動くほどドツボにはまるように話がややこしくなるところなど、思わず吹き出したポイントが多い。このあたり「不条理」なんて小難しい言葉を持ち出すよりも、まだウブい青年が異国の地の大人たち、または世界中にからかわれ続けるという、「赤面」小説といったほうがしっくりくる。
2015/11/15
ぞしま
孤独三部作の冒頭作品らしい。『審判』『城』なんかに比べてカラッとしていて映像的でユーモアが際立っている感じを覚えた。舞台がアメリカという新大陸であること、主人公カールが成長途上にあること、これらがある種前景的な拡がりを物語に与えており、どこか清涼で、カフカの知らない魅力を感じた。著者自身が前述二作より若書きであったことも大きいのだと思う。細部は荒唐無稽と取れるが、筋はあり、テレーゼと母親のところはことのほか良かった。カールの断片的後日談はちょっとぶっ飛んでいたりもして、読後じわじわくる感じがたまらない。
2018/01/12
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