灯台守の話 (白水Uブックス175)
灯台守の話 (白水Uブックス175) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
ジャネット・ウィンターソンは初読。現代イギリス文学の旗手の1人のようだ。本編は2004年の刊行。物語空間の核には灯台が屹立しているのだが、時間軸は自由に揺れ動く。それは、あたかも灯台に打ち寄せる波のごとくに。そうした自由度を持った時間を貫流し、ある意味では時間を超越しているのが灯台守のピューだ。原題からすれば、彼こそが主人公であるのかも知れない。語り手のシルバーの孤独は深く、愛への渇望は絶望と背中合わせだ。読者にとっての救いはドッグ=ジムの存在だろうか。そして、難解さと親近性もまた不思議な近接性を持つ。
2014/09/22
buchipanda3
「お話して、ピュー」、物語、物語、物語り。ちょっとユニークだけれどとても魅力的な語り口だった。特に少女シルバーと灯台守の老人ピューとのやり取りは、落ち着いた描写なのにどの言葉も煌めいていてウキウキと弾むようだった。さらにピューの人生観に響く言葉にハッとなった。一見すると厳しい境遇の二人は人生を物語ることで自らの生きる道(陸)へと導かれる。一方で恵まれていたダークは自分を物語に出来る余裕がなく心に翳りを持つ。それでもきっと。なぜなら何度でも最初から始まるお話、それが人生の物語だから。「お話して、シルバー」。
2022/07/13
nobi
盲目の灯台守ピューとの濃密な闇の中、シルバーの自問自答が磨き上げたプリズム。その光の反射と収斂を通して見ると彼女の奇矯な行動にも共感してしまう。“ベニスに死す”も“コンゴウインコ”も彼女のものでいいではないか。それなしでは難破する彼女の“位置を示す座標”即ち灯台なのだから。モリーとバベルのまたトリスタンとイゾルデの孤独を癒やす官能と癒えない傷。それらの言葉の一つ一つは唐突のように見えて、それ以外の表現がありえない程磨き抜かれ、シルバーと同じく孤児であった作家自身の声とも重なって切々と時に飄々と響いてくる。
2018/10/28
azukinako
こういう小説に出会うために私は本を読んでいるのだと思う。盲目の灯台守のピューに引き取られた孤児のシルバー。光を守りながら暗闇で暮らす二人のの日常に私は色や匂いを感じる。そしてピューの力強い言葉と語りに心がぼわっと温かくなる。岸本さんの翻訳がまた素晴らしい。「他人の真実になることは誰にもできないが、自分は自分の真実でいられるからな」「じゃあ、あたしはなんていえばいいの?どんなときにだね?誰かを愛したとき。そのとおりに言えばいい」そして、誰もが自分の物語を語ることができるのだ。ウィンターソン、他も読みたい。
2021/12/27
ふう
はじまりは不思議なおとぎ話のようでした。崖の上に斜めに突き刺さった家に住んでいたシルバー。母親が亡くなり、孤児になったシルバーは灯台守のピューに引き取られました。ピューは言います。「すべての灯台が物語。そこから放たれる光もまた物語そのもの」と。そして、100年前に生きた牧師ダークの愛憎に満ちた数奇な人生について話しました。ピューの言葉は詩のように深く美しく、シルバーの行き先をまっすぐ照らしてくれます。シルバーもまた言います。「ピューが灯台。ピューがいるといないとでは、愛があるのとないのとのちがいがある」と
2023/10/26
感想・レビューをもっと見る