オレンジだけが果物じゃない (白水Uブックス176)
オレンジだけが果物じゃない (白水Uブックス176) / 感想・レビュー
遥かなる想い
少女ジャネットの成長の物語である。 英国の古き良き時代の道徳観・生活感の雰囲気が 懐かしく 心地よい。 格闘好きの母の圧倒的な存在感と影響力が 少女ジャネットの成長を促す… 現実と空想が入り混じり、独特な語りの世界… 夢見る少女が 母の影響から 巣立っていく… 自伝的な色彩が強い、ひどく 英国的な物語だった。
2019/04/28
ケイ
大変苦しかった。読んでいる間、もう退会された、とても仲良くしてもらっていた読友さんのことを考えずにはおられなかったから。その人は孤児ではなかったけれど。家の宗教が狂信的であるということすら知らずに育つ恐ろしさと、それに気づいた時の驚愕。それがイヤでもそういえない養子の身の上。作者は書くことで、浄化できる部分もあったのだろう。こんなツラさを、一歩引いて、滑稽さをまじえて書けることに喝采をおくりたい気分だ。
2016/12/03
まふ
個性に満ちた語り手による不思議な「じぶん」の物語。ほぼ自らの出自、家庭、体験をそのまま描いたようなストーリーだ。カルト系原理主義的キリスト教の熱烈な信者である母に「もらい子」として育てられ教会と聖書だけの世界から「自分」を見つけ出し同性愛の道へと進み母親から勘当される…。アーサー王伝説や魔女の物語などが突如並行して現れ物語のジグザグ的な進行を読者に覚悟させ、ほぼその通りに「ないまぜの世界」が現出する。読み手の想像力と総合力とを試される、なかなか手ごわい作品であった。G493/1000.
2024/04/25
nobi
章のタイトルが全て、例えば創世記のように旧約聖書の書の名。それも布教活動家の母とその英才教育を受けている娘の話なので、こてこてのキリスト教信者の小説?かと思いきや、ある種の宗教の偏狭さに距離をおいた軽妙でおかしみのあるタッチ。訳(岸田佐和子)が似合ってる。その中、物語と夢現の世界が挟まれると、日常の軋轢とか葛藤は相対化されて、静かに悲しみが齎されてくる。一つだけ異質な章(*記)は、呪詛のような言葉が歴史と過去そして物語の関係を捉えながら炸裂する。ポル・ポトは過去を一掃し、作者は自らの過去を記憶を蘇らせた。
2019/12/29
harass
女流作家のデビュー作。狂信的なキリスト教徒の母の養子となったヒロインは、強烈な英才教育の影響で幼くして説教師をやるまでに育った。だが彼女は恋愛をするようになった。それも同級生の女友達に…… 半自伝小説なのだという。 読んでいて赤毛のアンを連想してしまった。コミカルな要素が強いが悲痛だ。異常な価値観で凝り固まった彼女が、世間と衝突していき、そこから脱却していくのがある種の感動を感じた。『物語』についての考察がありなかなか興味深かった。
2015/09/13
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