赤死病 (白水Uブックス)
赤死病 (白水Uブックス) / 感想・レビュー
やいっち
「野性の呼び声」や「白い牙」などで知られる冒険作家のロンドンだが、アラスカものや海洋もの、ボクシング小説群など多様な物語を書いている。異人種との接触譚が好きなようで、処女作がなんと「日本沿岸の台風」。社会主義関連の文明論的小説・講演・エッセイにも手を染めている。本書所収の「赤死病」やSF的な物語で細菌戦を描いた「比類なき侵略」、惑星の歴史、人類の歴史を妄想的に展望する「人間の漂流」は、このジャンル。晩年はカリフォルニア州に二人目の妻と居住し、農園経営しつつ田園小説なるジャンルに手を付けている。
2020/11/28
パトラッシュ
ジャック・ロンドンのパンデミックを主題としたディストピアSF。謎の感染症で文明が滅んだ地球に生き残ったわずかな人びとを描く「赤死病」は、新型コロナが高致死率だったらあり得た世界にも思えるし、巨大な人口を背景に公然と世界支配をたくらむ中国を他国が一致して細菌戦で滅亡させる「比類なき侵略」は、中国の戦狼外交を目の当たりにしている現代人にとって小説とは思えぬ予言に響く。自然であれ人工的であれ、増えすぎた人間は淘汰されるとのペシミスティックな文明観を感じる。果たして作家の空想だと笑いとばせる人がどれだけいるのか。
2021/06/11
マリリン
書かれたのは20世紀初期だが、3作品全てSFとは思えない位リアル感があり預言的なものすら感じた。特に感染症の事を書いた「赤死病」は、リアルだが、凄まじい勢いで感染が広がり、神も仏もない“死”に至る経緯は容赦なく迫る。死の影は人を選ばす忍び寄り、人間の手が入った自然は荒廃たる様になり本来の姿を現し、生態系も変化する。老人が過去を振り返り子供(孫)達に語る情景は凄まじいが、読んでいて情景の美しさや心地よさを感じるのは、再生の息吹きが感じるからか。長い歴史の中での一つの事象である赤死病。コロナ渦も然り。
2021/01/02
ニミッツクラス
20年(令和2年)の税抜1400円のソフトカバー初版。ロンドン作品にしてはカバーがスッキリで圧しが弱い。先発95年の新樹社版に入っていた挿画25点は割愛したが度量衡を含む改訳については変更なしだろう。特筆すべきは「赤死病」の他に「比類なき侵略」を併録した事。これは中国が圧倒的な人口で周辺国家を押し、なし崩し的に融和を進める侵略物として秀逸。侵略に際して100万人単位で人民の消耗が可能ならその戦術が有効なのはのちにソ連の対独戦で証明された。協調した世界各国が打った起死回生の会心の一撃とは…。★★★★☆☆
2022/10/28
ホームズ
感染率が極めて高く、顔や体中が深紅の色に変わり死に至る“赤死病”により文明が崩壊した世界。老人が語る人類滅亡の過程「赤死病」。 人口が急増した中国の絶滅を図るため細菌兵器による戦争「比類なき侵略」 神保町ブックフリマで購入。 好みの感じで良い作品だった
2023/05/15
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