ヴェネツィアの宿: 須賀敦子コレクション (白水Uブックス 1054 エッセイの小径 須賀敦子コレクション)
ヴェネツィアの宿: 須賀敦子コレクション (白水Uブックス 1054 エッセイの小径 須賀敦子コレクション) / 感想・レビュー
アン
フェニーチェ劇場から流れる音楽に身を委ね、亡き父に想いを馳せる表題作と父の願いを描いた「オリエント・エクスプレス」が印象に残ります。カトリックの寄宿舎での生活、フランスとイタリアへの留学、最愛のペッピーノとの結婚…。豊かなエピソードが重層的に編まれ、哀愁を帯びた情景と日々を慈しむ大切さが伝わってきます。胸をつく言葉も多くあり、西欧の文化を肌で感じ取り、自分らしく生きる意味を探し求めるしなやかな意志と行動力に驚くばかりです。愛に満ちた人生の軌跡。須賀さんの柔らかな寛大さに包まれるようです。
2019/10/25
燃えつきた棒
ここ十日ほど本が読めないでいたが、またしても須賀さんの悲しみに吸い寄せられてしまった。 須賀さんは、僕の母と同じ昭和四年(1929年)の生まれである。 もちろん、須賀さんと母とでは生まれも育ちもずいぶんと違うのだろうけれど、学生の頃、映画館のスクリーンの中に片想いだったマドンナの影を探したように、須賀さんの文章の中に、母が生きた時代の空気を探してみたかった。/
2022/12/31
ともっこ
まるで珠玉の短編小説集を読んでいる感覚だった。 著者が人生に悩み、人の暖かさに触れ、行動し進む様子が豊かな描写力と表現力で綴られ、静かな感動を与えてくれる。 どの編も美しくしみじみとした余韻を残す読後感。 極上のエッセイだ。
2021/10/24
くさてる
しみじみと響くように良い。何十年も前のヨーロッパで出会った人々の笑顔や囁き、父母の思い出、夫の面影。これまでの人生を通り過ぎたそんなものたちが記憶の中から漂い出て消えていこうとするのを繋ぎとめて文章にする。それでようやく大事なものが形となって残ることが出来た、そんな印象を受けた。とくに、奇妙な京都の婦人との出会いを描いた「白い方丈」は、奇妙な味の短篇といっても通るような、不思議な読後感を残す一篇だった。
2015/11/16
deria
彼女の歩んできた人生や思い出がとても精密に、それでいて断片的に綴られている。身近な人の死についても心を乱された様子もなく静かにあっさりと書かれているのだが、決して感情の起伏を感じさせないのではなく悲しみや寂しさをしっかり感じる。12編のどれもが不思議な余韻を持ち、読者の感受性を強く刺激する。「著者の心の奥底にしまっておいた大切なモノを見せてもらった」と思える非常に素晴らしい作品でした。
2016/03/24
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