ユルスナールの靴 (白水Uブックス 1056 エッセイの小径 須賀敦子コレクション)
ユルスナールの靴 (白水Uブックス 1056 エッセイの小径 須賀敦子コレクション) / 感想・レビュー
buchipanda3
エッセイ集。誰しも人生の旅を歩いていくのにぴったりの靴というものを探し続けているのかもしれない。その靴さえあれば自分は行くべき所に行けるはずだと。須賀さんも自分に合う靴(生き方)を求めながらも何度もステンと転び迷う人生を本作で振り返っている。そこに同じく故郷を離れた生き方をした作家ユルスナール、さらにユルスナールが描いたハドリアヌス帝とシンクロすることで須賀さんは自らの暗闇から抜け出す。淡々としながらも言葉一つ一つに真摯な思いが込められた文章、そしてどこかやんちゃさもある軽妙さにとても惹かれた作品だった。
2023/04/19
アン
「きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ。」20世紀のフランスを代表する作家のひとりユルスナール。彼女の生涯と作品の軌跡を辿りながら、ご自身の魂の模索を重ね合わせ綴られた作品。須賀さんが生き方を常に探し求めハドリアヌス皇帝を追いながら、ユルスナールに魅せられ共感していく様子が流麗な文章により強く心に迫ってきます。マルグリットの最晩年の写真に思いを馳せ、人生にそっと寄り添う靴のエピソードで締められるラストには心がじんわりと。須賀さんの愛に満ちた優しい眼差しにため息。
2020/03/28
mizuki
ユルスナールへの憧れが伝わってくるエッセイは、とても須賀敦子さんらしく、柔らかな文章の中にも熱いメッセージがしっかりと詰まった一冊でした。ハドリアヌス帝を追いかけるユルスナール、そして彼女を追いかける須賀さん。ユルスナールと須賀さんが同じ作家としての苦労や喜びを共有しているようでした。わたしには掴めそうでなかなか掴めないものばかり。ただユルスナールの文章の美しさは伝わってきました。彼女の作品を味わい、またこの本も再読できたらと思います。
2018/02/08
みねたか@
ユルスナールが生きた軌跡と著者のそれとを文章のなかで交錯させ,ひとつの織物のように立ち上がらせるという試み。そこに作品世界も交錯してくる。著者のエッセイとしては若干読みにくいが,それを補ってあまりある深みと奥行き。最も印象深いのは二人がくぐり抜けた「霊魂の闇」。著者は夫との死別により,それまでは見えなかった虚像と実体のあいだに横たわる溝の深さを知り,ユルスナールは世界の崩壊を生き抜くことでハドリアヌスの境地に近づいたという「霊魂の闇」。その経験に思いを馳せるだけで呼吸が深くなってゆく。
2020/08/05
ぐっちー
須賀さんの文章は優しい味の食べ物のように沁みる。時によって熟成され、選び抜かれた言葉で綴られる作品はそれ自体が宝石。作家ユルスナールの生き方を追想しながら、須賀敦子の人生が二重写しになる。お恐れながら私自身も重ねてみる。「きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ」という冒頭の一文に現れた須賀敦子の姿勢に打たれる。迷いっぱなしの私は、まだ自分の靴が見つかっていないのかな。
2018/03/20
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