フランス組曲
フランス組曲 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
作者のネミロフスキーは、一家がロシアからフランスに亡命してきたユダヤ人である。彼女は、フランスで細々と作家活動を行っていたのだが、ドイツのフランス侵攻後、アウシュビッツに送られ、そこで命を落とす。本書は、そんな彼女が娘に託したトランクの中にあった原稿である。大部の小説だが(本来は、さらに3章が加わるはずだった)、その筆致は精緻を極める。そして、それでいて大作の風格を併せ持っている。ことに、第1章「6月の嵐」は、ドイツ軍のパリ侵攻に伴って南へと逃げてゆく群衆を描くのだが、そこではペリカン一家をはじめとした⇒
2024/05/13
遥かなる想い
アウシュビッツで亡くなった著者の遺作であり、あらためて戦争の傷跡が 心に痛い。第二次大戦におけるドイツ占領下の フランスの庶民の様子を丹念に描く。 それにしても ドイツ兵とフランス女性の心の 交流..どう展開させようとしていたのか.. 未完であることが少し残念な本だった。
2017/01/12
ケイ
著者がアウシュビッツで亡くなってから半世紀後に、彼女の娘が保管していた原稿が書籍化されたもの。創作半ばで彼女は亡くなっているために勿論だが、各章を一つ一つの中編として読んでも十分に美しい文章たちだ。ドイツ軍によるパリ陥落に逃げ惑う人々、ドイツ占領下のフランス南部で暮らす人々。彼らの心模様が繊細に記される。ドイツ軍を語るときにも、そこには憎しみより悲しみや絶望があるが、それが全体を抑え込まず、登場人物達の気持ちの動きが丁寧に描かれている。彼女が残したメモも最後に数十頁ある。
2016/07/26
紅はこべ
アウシュビッツで亡くなったユダヤ人の方なのに、何故登場人物にユダヤ人がいないのか、ナチスドイツへの憎悪がそんなに感じられないのは何故か、解説を読んで納得。カトリックに改宗し、ドイツはむしろボルシェビキの敵という感覚なんだ。パリからの大脱出を描いた「六月の嵐」、ドイツ軍の駐留が決まった農村を描いた「ドルチェ」、雰囲気がだいぶ違うけど、これ、未完なんだ。これだけで十分完成度は高いけど、リュシルやジャン・マリのその後の運命読みたかったな。富裕層や知識人の傲慢さと庶民のまともさの対比がよく書けてる。
2016/09/17
藤月はな(灯れ松明の火)
第二章「ドルチェ」を根底におき、エンドロールの青インクでびっちりと書かれたプロットに最も泣いてしまった映画「フランス組曲」を観て原作も読んでみたくなりました。出フランスを描いた第一章「六月の嵐」での人間のエゴ、偽善、無慈悲、慈悲の入り組む描写が見事。映画で只管、翻弄されるラバリ家の妻マドレーヌの秘められた恋や第一次対戦時の落とし子かもしれないという描写もあるのにも胸が詰まる。もし、作者が生き延びてこの本が完成していたら第一次大戦を描いた『チボー家の人々』と並ぶ名著になったかもしれないと思うと、とても悔しい
2016/03/22
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