デニーロ・ゲーム (エクス・リブリス)
デニーロ・ゲーム (エクス・リブリス) / 感想・レビュー
ケイ
今はシリアだが、子供の頃に内戦と言えばレバノン、ベイルートが頭に浮かんだ地だったと思う。壊されていくベイルートの街。アルメニア系キリスト教徒の若者。破壊される中にいる仲間達が、盗み合い、騙し合う。荒廃した心に暖かさをもたらすものが一つずつ消えていく。その喪失の哀しみは深く語られない分、哀しみの深さを物語る。内戦の哀しみ、逃げた先での哀しみ、仲間を失う哀しみ。そして、悔しさ。たどたどしく多弁な作品。わずかに陳腐に感じたのは『異邦人』の引用され方。そして、訳者藤井光氏の後書きでの感傷。訳者は隠れているべきだ
2017/09/27
まふ
全体の2/3はベイルートを舞台にした暴虐世界で読んでいていささかウンザリ感、残り1/3はパリが舞台となってようやく静かな世界となる、と思いきや最後はイスラエルのスパイ組織が出て来て裏側世界に戻る、という、結局は全編落ち着かない世界であった。レバノンの内戦はキリスト教徒とイスラム教徒の戦いであった。ここにユダヤのイスラエルが絡むわけであるから、日常が混乱するのは当然。作者はベイルートを離れて現在はカナダに在住とのことだが、内戦が日常化した故国は住みたくないだろうと思う。G561/1000。
2024/07/12
藤月はな(灯れ松明の火)
おそらく、映画『オマールの壁』のように気軽な気分で手を出したらやり切れなさで胸が潰れそうになる本。一万もの砲弾が飛び交うベイルートでも日常はある。そんな街で二発目の砲弾がどこに着弾するかを見届けるという「デニーロ・ゲーム」に興じ、密売やカッパライなどのゴロツキ仕事で笑い合うバッサームとジョルジュ。兄弟のように育ってきた彼らは引き裂かれて行く。母を失い、拷問を受け、ジョルジュとも「分たれてしまった」バッサームへのジョルジュの異母妹であるレアの質問は無邪気だ。だがその無邪気さは平和な場所にいる私達の映し身だ。
2016/05/27
NAO
一万の砲弾が降り注ぐ街ベイルート。生きることが困難な場所では誰もが何かにすがり、誰かを頼りにしようとする。だが、何かに属するということは、純粋な自分を失うということでもある。属することを選んだジョルジュと属さないことを選んだバッサームの間に溝が入り、それが広がっていくのは、仕方がないことだったのか。パリのホテルで『異邦人』を読むバッサールは痛々しくもあるが、冴え冴えとしている。ジョルジュが考え出し、「デニーロ」というあだ名のもとになったゲーム。最後のデニーロ・ゲームはジョルジュの故意だったのだろうか。
2016/03/15
りつこ
ヘヴィだった。戦争という圧倒的な暴力によって奪われていく家族、家、友だち。当たり前のように人が死んでいくなかで徐々に正気を失っていき、何かしようと思ったら邪魔なものは次々殺していかないといけない。静かな語り口で圧倒的な絶望を伝えてきて、読んでるこちらもぐったり…。
2012/05/22
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