死体展覧会 (エクス・リブリス)
死体展覧会 (エクス・リブリス) / 感想・レビュー
ケイ
戦争や内戦下であっても、逞しく括ってきた友人。しかし、年を経るごとに、逝くもの達が増えていく。彼らは旅立たない。すぐ側にいて、囁く。死が身近になり過ぎて、死はもはや逝く人たちを連れていかない。彼らは私とともにいる。むしろそばにずっといるではないか。だが、哀しくて仕方ない。喪失感はどうしても覆いきれない。その気持ちがさらに亡者達と私の境界を曖昧にする…。
2020/03/23
どんぐり
人を殺してその死体をいかに芸術的に展示するか、そんな仕事を請け負う男の末路を描いた《死体展覧会》をはじめとする「現実性と非現実性が交錯する14の物語」。イラクから亡命した作家ハサン・ブラーシムの作品は暴力と恐怖に満ちており、とてもシュールな世界が描かれている。
2019/02/06
かわうそ
悪夢のようなイラクの日常がSF的な設定や幻想小説風味を交えながら描かれていて、読み進めるうちにどこまでが現実に基づく描写なのか境界線が曖昧になってくる。タイトルどおり暴力と死の展覧会のような作品集。これは素晴らしい。
2018/01/16
さっとる◎
世界は何層にもなっている。自分の属していない世界の現実と、属する世界で見る幻と、どちらがよりフィクションなんだろう。アラビア語から英語を経て日本語となった本が醸し出す死に近しい灰色の恐怖。そこに知ったつもりのイラクの現実を見る。物語となってしまった過去ではなく現在に並走する現実としての。それは今ここで私が描ける物語ではなく別の層の別の世界で語られた知らない言葉。人生の恐怖に対抗し得るのは想像上の別の悪夢。死体は溢れるほどでそこには芸術が入り込み、たくさんの飢え死の上に神はいる。そして奇跡は暗闇に沈むのだ。
2018/12/07
ヘラジカ
アラブ文学という割には翻訳者がかの藤井光氏で「?」となっていたが、つまり重訳である。少し落胆したものの「重訳があまり喜ばれない傾向にあるなかこの本を出版したのだから、さぞ凄い小説なのだろう」という予想は見事に外れなかった。タイトルの『死体展覧会』とは冒頭の短い短篇だが、収録作品すべてを読み終えると、本自体がさながら暴力と死と不条理の展覧会であることが良く分かる。どの作品を取っても強烈な悪夢感を味わうことが出来る恐ろしい短篇集。読んでるときの感覚として似ているのはデーブリーンか。(2017・69)
2017/10/25
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