ぼくの兄の場合 (エクス・リブリス)
ぼくの兄の場合 (エクス・リブリス) / 感想・レビュー
ケンイチミズバ
僕は臆病ではありませんでした。父が喪失に耐えつつ、できれば兄の代わりにどの子を死なせたかったか考えているのがわかった。あまりに痛々しい弟の思い。晩年まで残されたしこり。一番愛され期待された兄、期待されなかった姉、弟。しかし、兄は野戦病院で両足を切断され、人生が永遠に変わってしまったことを知り、もう青春はないと思いながらあっけなく死んだ。19才、出征しわずか数ヶ月。世の中と一体になることを望んだ父親のせいで志願した。母宛の手紙には戦闘について一切書かなかった兄の思いやり、両親が亡くなりようやく書けた真実。
2018/08/27
ぐうぐう
歴史における戦争は、戦争の記憶によって形成されている。個々の記憶には差異があり、それ以前に記憶は曖昧なものだ。国家によってその曖昧さが利用され、歴史が捏造されることもままある。しかし、書き換えるのは国家に限ったことではない。16歳年上の兄がヒトラーユーゲントから武装親衛隊となり戦場にいたとき、著者であるウーヴェ・ティムはまだ三歳にも満たなかった。戦場で命を落とした兄は、日記を付けていて、家族に何通もの手紙を送っている。(つづく)
2018/08/25
ヘラジカ
兄を介しての戦争体験や家族との記憶、ホロコーストに対する論考をつらつらと書いた自伝的小説。ノンフィクションかと思いきや、訳者の解説を読むとオートフィクションという半自伝とのこと。事実にしては些か平々凡々とした人生が、ただの記録ではなくフィクションも入り混じっているということに逆に驚いた。エモーショナルで揺り動かされる読書というわけではないので失礼な話少し退屈してしまったが、大切に読まれるべき作品なのはよく分かる。確かに教科書に載っていそうだ。
2018/07/21
くさてる
第二次世界大戦に武装親衛隊の一員として戦い、負傷して命を落とした兄について、残されたわずかな資料と自分の記憶をもとに綴った内容。派手な内容でないし、お涙頂戴のロマン性もない。むしろ、ここにあるのはただの家族の歴史だ。そしてそこから生まれる、歴史のなかにただ「在る」普通の人々の息遣いのようなもののリアルに圧倒された。静かだけど、強い一冊。
2018/08/16
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
19歳で戦死した兄はナチス親衛隊髑髏部隊だった。死後送られてきたメモのような日記から、兄が何をしたか、実の所一番知りたいのは残虐行為に手を染めたかを読み取ろうとする弟。「兄は勇敢だった」と繰り返す両親は戦後家を失い、その後起こした商売も時代と共に苦しくなって、その苦しさで自分たちもこの戦争の被害者の方になったという意識に傾いていく。戦中に自分たちの近所のユダヤ人達が消えていった時は「部分的な盲目」を貫き、戦後は「想像もしなかった」との記憶の書き換え。兄は戦場で何を見て何を見ないふりをしていたのだろう
2023/04/28
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