断絶 (エクス・リブリス)
断絶 (エクス・リブリス) / 感想・レビュー
こーた
朝起きて仕事に行く。おなじ時刻のおなじ電車に揺られ、おなじビルのおなじエレベータに乗ってオフィスに着く。パンデミック後の世界でもその生活に変化はない。中国発のシェン熱が蔓延する。感染した者は単純なルーティンをひたすら繰り返すようになる。まるでゾンビみたいに。でも、罹る以前から人生の大半は膨大なルーティンで成り立っていたようにもおもえる。ウイルスは現に存在していた欺瞞を暴いただけなのかもしれない。小説の外側でもパンデミックが起きているいま、ゴーストタウンと化した街のようすや、生活のどんどん不便になっていく⇒
2021/05/11
ヘラジカ
中国系アメリカ人の孤独と寂寥感に溢れた物語に、ロメロやマシスンのパロディをミックスさせた、ユニークで新しい移民文学。故郷や日常、消費資本主義や人間関係、あらゆる物事との「断絶」を抑制された筆致で丁寧に描いている。文明が静かに死にかけているというのに、プライベートな問題を切迫感のない文章で滔々と語る様が非常に印象的。中国由来の人を”生ける屍”へと変えてしまうシェン熱は、その発症条件(もしくは発症しない理由)を考えると、暗喩として裏に何があるかを想像できて面白い。大変好みな終末小説だった。
2021/03/25
星落秋風五丈原
新型コロナを先取りしたかのような中国から始まった謎の病で人々が死にゴーストタウンになっていく。ウォーキングデッドみたい。
2021/04/16
ぽてち
2011年、中国発の真菌感染症・シェン熱が猛威を振るい、人類は滅亡の危機に瀕していた。感染者は意識を失くし、日常の同じ動作を繰り返す。ニューヨークが無人となる中、中国からの移民であるキャンディスは変わらずオフィスに通い業務を続ける。キャンディスを通して、〈災厄〉前後の世界を交互に描いていく。細部に甘いところはあるが、コロナ禍の“流行り”ものと捉えられてしまうのはもったいない骨太な小説だ。
2021/06/01
かもめ通信
“未知の病「シェン熱」が世界を襲い、感染者はゾンビ化…”という予告を目にして、読まず嫌いを発症しかけたが、訳者が藤井光さんだというので、おそるおそる読んでみたら、これがなんともすごかった。人類がほぼ全滅してしまった後の生き残りをかけたロードノベルでありながら、主人公の中国系アメリカ人女性の回想を通して語られる移民の、親子の物語であり、信仰を問う物語でもあると同時にグローバル経済の元での社会の矛盾をつきつける物語でもあって。読み応えたっぷり。
2021/04/21
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