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黒の過程

黒の過程

黒の過程

作家
マルグリット・ユルスナール
岩崎力
出版社
白水社
発売日
2008-12-16
ISBN
9784560092200
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黒の過程 / 感想・レビュー

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syaori

16世紀、ルネサンスが花開き宗教改革が叫ばれる時代。物語は医師で錬金術師ゼノンの半生に、彼の親族や知人の人生のある部分も重ねていくことで緻密で重厚なものとなっています。『黒の過程』とは「化金石の探求のなかでもっとも困難をきわめる部分」のことのようですが、本を閉じたとき「象徴的な意味を込めてしきたりと偏見から抜け出るさいの精神の試練」を指す言葉として、物語を通じて描かれる「さらにその先まで」というゼノンの精神、そして16世紀という中世から近世への転換期の混沌とした時代の精神のことではなかったかと感じました。

2017/04/12

みねたか@

16世紀、フランドル、錬金術師にして外科医かつ哲学者ゼノン。若き日のユルスナールが創造し本書上梓まで数十年にわたり共に人生を歩み、彫琢された男。カトリックとプロテスタントの分裂、君主制の始まりと資本主義の発展という激動の時代。時代背景の理解が浅く十分に味わえたとは言えまい。しかし、明晰であることを希求し真実を探求したゼノンの魂の軌跡はそれだけで圧倒的だった。本書を読了するまで数か月、ゼノンの同伴者とはなり得なかったが、その存在はいつまでも私の中で仄暗い光を放ち続けるに違いない。

2021/01/31

マウリツィウス

《L'Oeuvre au noir》「古典主義」の打出した《二重奏》を邦訳理論から吸収引用可能だろう。仏語訳化されたことでのラテン語資料を解析範囲に含められる。したがって原典出典は『新約聖書』-明らかにされるべき主題を帯びる。『ハドリアヌス』以降の翻訳功績論(ハドリアヌス『帝』)を再解釈見地に踏襲した『黒(Noir)』は古典主義系譜を明瞭批判した。Memoires=古典化された「ハドリアヌス」を命名主義から離脱させるならば《真実の姿》は明らかだ。この方法論痕跡が《翻訳過程すら計算し尽した》文法意味に拠る。

2013/10/19

うた

今年ベストの1冊。近代へむかって蠢動し始めているルネサンス社会を縫うようにあるく錬金術師ゼノンの足跡をたどる。噴出する信仰の議論やモンテーニュやダ・ヴィンチの思考をたどりながら、ゼノンは物事をながめ、悩み、歩き、立ち止まる。教会の法にふれながら信仰をすてず、しかし目を曇らせないゼノンの姿に、ヨーロッパをおおう信仰のあり方をみたような気がします。

2010/12/29

うた

再読。相変わらず素晴らしい読み応え。以前は前半のゼノンの両親や親類とその顛末がまた全く頭に入ってこなかったが、初読からあれこれ見たり読んでしきたためか、ゼノンの人物像とともに立ち上がってきた。人以上になると語るゼノンだが、肉体のある身である以上どこまでも人間であり、反面理性を突き詰めていく鋭い精神性も持ち合わせている。彼の目指したものや生も死も、砂丘の砂のように流れ行き、しかし確実にこの世の一部となるもの。こういうルネサンスを内側から書いた小説はもっとあっていいと思う。

2021/02/20

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