フランス組曲[新装版]
フランス組曲[新装版] / 感想・レビュー
まふ
全編4話(?)の第2話までで終わった未完の大作。第1部「6月の嵐」はナチスドイツのフランス侵攻によりパリから逃げまどう銀行家ペリカン一族とその周辺の人々の逃亡の状況を中心に描かれる。第2部「ドルチェ」は占領下のドイツ軍兵士たちとの心のふれあい状況が展開される。作者は当時のソヴィエト領内のウクライナでフランス語を話す家庭に生まれ育ちアウシュヴィッツ収容所で死んだユダヤ人である。全編から溢れるのは「戦争の空しさ」であり、残る後半が未完なのは惜しまれるところである。G526/1000。
2024/06/02
駄目男
初読みの作家でイレーヌ・ネミロフスキーと言われても誰ことやら分からないまま読んだが、著者は女性作家だったんですね。それも現代作家ではなく、すでに1942年7月、フランス軍憲兵によって拉致されて以来、消息を絶ったままアウシュビッツで殺害されている。必死になって妻の消息を探す夫も10月に憲兵に逮捕され、同じ運命を辿った。本書は当初、トルストイの『戦争と平和』のように1000ページほどの長大なものを予定していたらしいが、先に書いたような状況で未完に終わってしまった。それでも500ページにも上る二部制で、
2023/08/23
algon
大ヒットとなった未完の大作だが読了後のインパクトは内容よりも作品草稿が歩んだ履歴にあった。著者は2部まで完成した原稿を娘に託しアウシュビッツに消えた。本の出版は2004年の事。5部構成を予定したこの作品は2部までの未完とは言えドイツに蹂躙されたフランスの被占領地としての陰陽を仮借なく描き出す。その中での大衆の混乱、ブルジョアの心根、そういう世相の中での愛の様相などを言わば香しい筆致で著わしていく。付された相当量の資料が作品全体の目論み、表現の規定などを著わし、拉致後の周辺の書簡等も。読めたことが有難いと。
2022/12/28
北風
フランス組曲。未完の作品がトランクの中に眠っていたのだという。ずっと気になっていたが、戦争の話とは知らなかった。また、ロシアのことを考えてしまう。五部作が完成されていたら、どれほどの作品だったことだろう。未完の傑作というにも完成度が高い。戦う兵士が主人公ではない。逃げ惑う一般の人々が描写されている。戦争という暴力に抗う人々が描かれ、その日常が描かれている。著者はそれを体験した人のようなので……。いま現実に起こっている戦争に、思いを馳せる。近頃では、日本のニュースも乏しくなる。物語も、外国同様、遠い異国。
2022/07/15
chiro
別々の話だと思っていたけれど、「六月の嵐」 「ドルチェ」から成る長編。本来ならば5部編成で戦況に合わせて登場人物の運命を変えながら執筆されるはずだったらしいが、最後まで完成しなかったのがとても残念。アウシュヴィッツで命を落としたイレーヌ自身も無念だった事だろう。結末はそれぞれの読者が想像して納得するという楽しみもあるかな。映画もとても素敵だった。
2020/12/04
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