ルーアンの丘
ルーアンの丘 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
遠藤周作のフランス留学記。瑞瑞しい筆致ではあるが、思考がやや単調であり、後年の引き裂かれるような内的葛藤は見られない。当時は、遥々と船で渡欧したようであり、隔世の感だ。多くの留学生がマルセイユからパリに向かうのに対して、遠藤は北フランスのルーアンで4か月を過ごす。彼にとって、それは文字通りに生涯忘れられぬ思い出となったことだろう。かつて萩原朔太郎は「フランスへ行きたしと思へどもフランスはあまりに遠し」と詠ったが、遠藤にとっても、そこは遥かな遥かな悠遠の地だった。文体はやや気に入らないが、これも若書き故か。
2015/01/12
はな*
フランス留学時の日記とエッセイ(没後に発見されたものらしい)。華やかなパリの街並みも、美しい田園地帯や高原の景色も、ホームステイ先での温かなもてなしも、ほのかな恋の話も、すべてが哀しみに包まれているように思えるのでした。それは、病のため志し半ばで帰国することになった作者の無念さが伝わってくるから。信仰上の悩み苦しみ、渡仏船での強烈な異文化体験など後の遠藤文学へと繋がるエピソードに交じりふと登場する恋の話に、ドキドキしてしまいました。
2016/10/10
でんちゅう
遠藤周作さんの小説を読み漁っていた時期があったけど、遠藤文学の原点と言える、この未発表エッセイは、今まで知らなかったです。後年の氏の小説のエッセンスとして、若々しくも着実に実が成長していく様子が窺えました。優しくて厳しい、それでもってユーモアを感じさせる瑞々しい文章は、とても気持ち良く心に響いてくれます。氏の青春はフランスに行っても明るく弾けた場面ばかりでなかったです。哲学的に悩んだり考え込んだり、不幸に暮らす外国人に手を差し伸べようとする、ひとりの作家魂が育まれるのが見えました。
2020/10/21
あや
戦後貧しい時代に神父様に仏語を教わり安く狭い船室でマルセイユに渡り、ルーアンに辿り着く。ホームステイ先のご家族に紳士に振る舞うように躾けられ懸命にこなそうとするも、パーティ先のご招待のお客様に、日本語でムッシューとは何とおっしゃるのですか?と訊ねられたところ悲劇が・・・ホームステイ先の奥様に「あなたはよくやったわよ!」と励まされるところがいちばん好きです。
2019/02/08
あや
戦後すぐに貧しい時代に渡仏する著者の留学記。「私が・棄てた・女」のモデルの女性との恋愛も描かれている。遠藤周作さんの文学は積読にしているだけの不真面目な読者だけれども遠藤文学のひとつの原点となるエッセイなのではないのだろうか、という無責任なことを言ってみる。
2020/03/15
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