深き心の底より (PHP文芸文庫)
深き心の底より (PHP文芸文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
比較的初期の掌編エッセイ集を項目ごとにまとめて再編集したもの。エッセイではあるが、その内の何篇かは小説を読んだ時の感慨に似たものを読者に与える。それは多分に終結部の余韻によるところが大きいように思う。例えば「私は家庭の医学を閉じ、廊下の柱に頭を押し当て、十数える。」といった風に。また、本書には小川洋子さんが作家になる重大な契機となった『アンネの日記』を始めとして、「生きていること」の尊厳とその輝きを語るものも多く、これらもまた読者に静かな共感と感動とを分け与えていくことになる(「ハムスターの死に方」他)。
2014/07/14
井月 奎(いづき けい)
小川洋子のエッセイ集です。「作品」という感じがしません。読みやすく整えられた文体は優れた仕事ですが、それでも「作品」という感じは受けないのです。きれいに保たれた道祖神や神社のような佇まいを感じます。人の手によるものですが、この世が生まれたときには、もうそこにあったかのような……アンネ・フランクに決定的な影響を受けた彼女の作品は命の意味を、人の尊厳を地下水脈を掘るように探り、澄んだところを読者に渡してくれるのです。天地にただよう命の源に形を与えているのかもしれません。私は彼女と同時代に生きる幸せを感じます。
2016/01/11
ito
軽く読めるものがいいなと思い、エッセイを借りた。小説を書くことは「言葉の石を一個一個つみあげてゆく」と表現しているのが彼女らしい。勢いやスピード感はないけど、感情の底から丁寧に言葉を紡いでいる真摯な姿勢が感じられる。見えないけれど大切なものを伝えたい、そんなメッセージがあった。彼女の育った環境も、彼女の小説には必要な要素だったのだな、と思う。「筍売りのおじさん」の話には、泣いた。何度も読んで、その度に泣いた。
2013/01/05
Kikuyo
再読。物語の意味を深くは考えたことはなかった。 作家さんは日々、存在する何かに言葉を与える作業を繰り返し、それを私達に伝えてくれる。辻褄のあわない自由自在な物語は、時に人の気持ちに寄り添い暖かなぬくもりも与えてくれる。 再読してみて思ったこと。自分にとって価値があり、素敵な響きの言葉―それはありふれたものかも知れないが―を見つけること、それが物語の大切な役割りのひとつなのかも。
2016/12/28
あんこ
久しぶりにゆっくり小川さんのことばに触れられました。小川さんの本は小説をふくめ、エッセイも数え切れないほどに読んできましたが、やはりわたしの生活に欠かせない作家さんです。どんな場面でも静かに、どこか哀しく。小川さんの内面に触れる度、時間を忘れてしまいます。このエッセイは色々な事柄について触れられていますが、小川さんの死生観は相変わらず救いのようなものです。真面目なだけではなく、実はお茶目なところも大好きです。
2015/06/07
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