上海灯蛾
上海灯蛾 / 感想・レビュー
パトラッシュ
金と暴力と謀略にまみれた戦前の上海は、冒険小説にとって最高の舞台となる。高品質アヘンを巡る秘密結社青幇と陸軍特務機関の争いに巻き込まれた2人の日本人が、片や自由を愛し片や日本人として認められたくて、互いに友情を感じながら敵対していくドラマが強烈だ。日中双方とも目的のためなら手段を選ばず、殺し殺されで死体を積み重ねていく。欲望のため罠にかけたり殺し合いながら、それぞれの譲れない意思に殉じる結末は美しさすら感じる。法や制度や権力に従わず、自らの正しさを信じて思うがままに生きたアウトローたちの群像劇を堪能した。
2023/04/27
モルク
1930年代貧しい農村から上海に移り雑貨屋をしている次郎。謎の女ユキエから預かった阿片は最高級品だった。中国マフィアと結びつきそこの実力者楊直と義兄弟の契りを結ぶことによって次第に渦に巻き込まれていく。阿片「最」の栽培で巨額な富を得るが…。権力争い、日本陸軍との攻防など残虐なシーンも多い。そしてロシア人の母を持つ青年伊沢。その血を払拭するようにより日本人らしくなりたいという思いが負の方向に向かう姿は不憫だ。中国名などの読みにくさは最初だけ、後はのめりこんだ。誰に媚びることなく己の願望に生きた男次郎が逞しい
2024/03/19
のぶ
壮絶な生き方をした人たちの物語だった。始まりは1934年上海。主人公の吾郷次郎のもとへ、原田ユキヱと名乗る謎めいた女から極上の阿片と芥子の種が持ち込まれる。次郎は上海の裏社会を支配する青幇の一員・楊直に渡りをつけるが、これをきっかけに、阿片ビジネスへ引き摺り込まれてしまう。やがて、上海では第二次上海事変が勃発。関東軍と青幇との間で、阿片をめぐって暗闘が繰り広げられる。時代と状況に翻弄される次郎の姿が長い話の中でよく描かれている。和製ウィンズロウとも例える事ができる麻薬を扱った作品だった。タイトルが絶妙。
2023/04/19
aki☆
1934年、日本人女性ユキヱによって極上の阿片が上海に持ち込まれる。阿片密売は裏社会を潤し、陰謀、裏切り、復讐を生み、やがて日本の特務機関との抗争へと発展。日本を捨て家族を捨て金と自由を求め上海へ渡った次郎と、家族の幸せのため仕事を選ばず裏社会で生きてきた楊直。違う人種の二人が阿片密売で繋がり、関係を深め共に闘い迎えた結末は予想外だった。序章の真相に思わず涙が。次郎の誇りとユキヱの強さが印象的。史実と実名を織り交ぜ阿片に翻弄された者たちを描いた残酷で切なくて胸が熱くなる一冊。読み応えがあり面白かった。
2023/11/09
たま
日中戦争を背景に関東軍と上海の闇組織・青幇の阿片抗争を描く。関東軍(つまり日本)の阿片ビジネスに興味があって読みはじめ、初めは物語に入りこむのが難しかったが、青幇の側に一枚噛んでいる次郎のジャズ好きの描写あたりから面白くなり、納得行かない点(ユキヱの去就とか)や人命の軽さに途惑いつつも、引き込まれて読んだ。作者の意図としては日本人の枠に縛られない生き方を望む次郎と日本人として関東軍で認められたい伊沢穣の対比が読みどころだったのかも知れないが、闇社会の中国人も含め、正直、人間関係は分からない点も多かった。
2023/08/05
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