償いの報酬 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
償いの報酬 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション) / 感想・レビュー
Tetchy
物語の事件そのものは特にミステリとしての驚くべき点はなく、ごくありふれた人捜し型私立探偵小説であろう。しかしこのシリーズに求めているのはそんなサプライズではなく、事件を通じてマットが邂逅する人々が垣間見せる人生の片鱗だったり、そしてアル中のマットが見せる弱さや人生観にある。古き良き時代は終わり、誰もが忙しい時代になった。ニューヨークの片隅でそれらの喧騒から離れ、グラスを交わす老境に入ったマットとミック2人の男の姿はブロックが我々に向けたシリーズの終焉を告げる最後の祝杯のように見えてならなかった。
2016/12/01
アイゼナハ@灯れ松明の火
久々に読む元アル中探偵マット・スカダーシリーズの新作。すっかり年をとったマットのミック・バルーへの昔語りといった体で進むのは、マットが禁酒してまだ1年にならない頃の物語。エレインと付き合い出して割と私生活が充実してきたマットも好きではあるのですが、酒の誘惑と戦いながら内省的に自分を見つめ続けているマットも久々に読むと凄くいいなぁ。ま、無事に年齢をとれている辺りにホッとしていなくもない訳ですが、こんな感じでまたニューヨークのイカしたブルースを聞かせていただきたいものです。
2012/11/08
ぺぱごじら
学生の頃(だから20年以上前)痺れながら読んでいたシリーズの最新作。『明晰な推理・瞬間の閃き』からは程遠い『家のドアを叩いて回る』古臭い手法で真相に近づくマットの姿が懐かしい。襲い掛かる外敵を薙ぎ倒すマッチョなハードボイルドから、自己内面の闘いにステージを変えたポスト・ハードボイルド。マットの場合は、それが『トラウマ』から『酒』と相手を変えていった。シリーズ屈指の名作『八百万の死にざま』から『慈悲深い死』に繋ぐ空白の時期(断酒一年目)の不安定な心身を抱え、マットは如何にして事件に臨んだのか。2013-57
2013/04/24
ひねもすのたり
私は世界中の人が健康で心穏やかに暮らせる事を願う小市民ですが、ただ一人例外がいます。それは本書の主人公スカダーです。 シリーズ最高傑作の『八百万の死にざま』以降、新作が出るたびに健康になっていくスカダーには、ネオハードボイルドミステリーの狂言廻しとしての胆力は備わってきましたが、葛藤を抱える都市小説の主人公としての魅力は薄まって行きました。 ミックとの昔話で幕を開けるシリーズ最新作の舞台は80年代。25¢を片手に、壊れていない公衆電話を探しながらNYの街角を歩くスカダー。彼はまだ葛藤の中にいます。
2013/06/07
niaruni
ミステリーとしてもちろん面白くないわけではないけれど、これはやはり、文章を読む作品なんだと思う。あちこちに出てくる、台詞や寸言のカッコいいこと。そうしたカッコよさが、回想という形を取らないと醸し出せないというところが、このジャンルを好む者としては淋しくはあるけれど。
2012/09/28
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