Scope: 桑原弘明作品集
Scope: 桑原弘明作品集 / 感想・レビュー
石油監査人
桑原弘明は、独創的な極小のオブジェ作品を制作しているアーティストです。この本に掲載されているスコープは、手のひらに乗るほどの小さい真鍮の箱の中を穴から覗き見て、そこにある部屋や庭、教会、天体観測室などの幻想的な風景を楽しむ彼の作品群です。例えば、カバー写真のテーブルの上に置かれた骸骨の大きさは、せいぜい、5ミリ程度。その全てが手作りで一つの作品を作り上げるのに数ヶ月かかるとのこと。1980年代から密室の中でこのような作品を制作し続けているアーティストが存在していること自体も詩的な物語であると思います。
2024/07/08
愛玉子
男性ならば片手に載せられるほどの美しい箱、だがそれは真鍮で出来ているのでかなり持ち重りがするはずだ。箱にはスコープが付いていて、覗き込むと中に小さな部屋がしつらえられているのがわかる。部屋の主はいない。ちょっと隣の部屋に行っただけのような濃厚な気配を宿す部屋もあれば、部屋の中はおろか外の世界にも誰一人存在しないかのような空虚な部屋もある。わずかに開いた扉の向こうには、他の部屋や外の風景が仄見える。あの向こうはどうなっているのだろう。この小さな宇宙に吸い込まれ、扉を開けてみたいと激しく願ってしまう。
2010/03/15
更紗蝦
桑原弘明氏の作品を初めて見たのは2007年の汐留ミュージアムの『あかり/ひかり/アート展』です。この展覧会は全般的にすごく面白かったのですが、桑原弘明氏の作品だけは、「うちに持って帰っていつまでも眺めていたい」と思いました。実物を見た時の感動には適いませんが、この写真集からでも、作品の持つ世界観の魅力は充分伝わってくるのではないかと思います。解説は巖谷國士氏、四谷シモン氏、種村季弘氏です。
2015/12/24
まみ
小さな箱の中に潜む小さな小さな異世界。実際に覗いたことはないけれど、印刷された写真を見ていても吸い込まれそうになる。多くの作品には鏡や窓、天体望遠鏡などさらに他の世界につながりそうなモチーフが使われていて、またそこに吸い込まれ、まるで合わせ鏡のように、入れ子のように、永遠に連綿とつながっていくかと思われる異世界から抜け出せなくなるような錯覚に陥る。素敵な作品たちでした。光の入れ方によって変化する様子が小さい写真でしか見られなかったのが残念。
2010/03/11
かりさ
『スコープ少年の不思議な旅』からさらに高みに達した豪華な作品集。巖谷さんの小説がないのは寂しいのですが、スコープの中の世界がより一層じっくり丁寧に見ることが出来るのは嬉しい。美しく装飾された箱からどんな世界が存在しているのか、覗き込む楽しさも味わってみたい。時間を紡ぎ作られたスコープの世界はその緻密さに圧倒され、独特な世界観から確かに芽吹いている想像の種を膨らませ、この箱の小宇宙に魅せられて。目眩のしそうな繊細なパーツ、素敵なアトリエにもうっとり。今も時を紡ぎ桑原さんの世界は創られているのでしょう。
2009/12/25
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