狂王
狂王 / 感想・レビュー
syaori
プレス・ビブリオマーヌから限定275部で刊行された稀覯本の復刻版。バヴァリアの童貞王、ワグナーのパトロンとして有名な狂王ルドヴィヒ二世についての澁澤の文章と野中ユリの挿画で構成されています。「芸術家としても贋物であり、王すなわち権力者としても贋物であった」「そして同時に、すべてが真実なのだ」という、澁澤の描き出す幾多の伝説に彩られた孤独なルドヴィヒの姿を、野中ユリのコラージュが月光のように隅々まで冷ややかに照らし出しているような印象の一冊で、文章と挿画が一体となった高みを見せるとても美しい本だと思います。
2020/07/31
yn1951jp
野中ユリによる『狂王 Rex Demens』が澁澤の文とともに描かれる。(アポリネールは『月王』と呼んだという)。若きルートヴィヒ2世の精悍な肖像写真の裏のコラージュ「鎧と蝶を前にして切立つ岩山が逆さに映る鏡」は若き狂王の姿を裏から映し出す。数人の登場人物が入り乱れる舞台のようなコラージュは、狂王の演劇的な人生を思い出させる。蝶、幼虫、貝、サンゴ、多面体、さまざまなモチーフに託されたのは狂王の超現実的な生活の象徴だろうか?最後の図は自らが築き上げた贋物だが真実の城に君臨する醜く滑稽な狂王の姿だろう。
2014/12/31
Roy
★★★★+ 傲慢ひとりよがり狂王の事は置いといて、野中ユリのコラージュに心奪われる。顔が無い、不安になる何かが寄生している人体。思い掛けず絵の中に入り込むと、貝の割れ目に吸い込まれ、蛾の鱗粉に噎せ返り、芋虫にはキャベツかのようにガジガジ食まれ、イソギンチャク女の孵化をまざまざ見せつけられる。挙句の果てには、貝頭の巨人に踏み潰されてしまうのだ。旅に出ると良き事にだけ出会うとは限らない。迂闊であった。
2009/06/03
クライン
彼はかのノイシュヴァンシュタイン城等3つの城を築き、ワグナーに傾倒、ローエングリンに果てのない歓喜を見出した。彼は時に激しく他者を求め、だが時にそれゆえ自らを深く苛み続けた。彼はそして40余年の最期を今もって残る謎と共に湖で迎えた。最期に脳裏をよぎったのは、巨大な柩と化した城か舞台に響く歌曲だったか。「狂王」ルートヴィヒⅡ世の断面を、澁澤氏の文・野中氏の絵で標本の如く結晶させた一冊。退廃の極みだけが表出させ得る愉悦が、間違いなくそこにはあった。狂気の異名、「月王」とも呼ばれた彼が見た月を、私も今見ている。
2013/10/16
いやしの本棚
「どんな夢でも長びけば牢獄になる」月王とも呼ばれたルートヴィヒⅡ世だけれど、自分で作りあげたはずの城(閉じられた世界)が、またオブセッションともなっていたというのは、なるほどそうだろうなと思えた。野中ユリのコラージュに惹かれる。グロテスクなのだけれど繊細で。この本にふさわしいと感じた。
2015/12/19
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