満たされぬ道 (上) (新しい世界文学シリーズ)
満たされぬ道 (上) (新しい世界文学シリーズ) / 感想・レビュー
ケイ
生まれてすぐ、幼くして亡くなる子は、精霊の世界の方がいいので帰ってゆくのだという。何度も同じ母のところに生まれてくるが、生まれても精霊たちに呼ばれるのだそうだ。そこはよくないよ、こっちがいいよ、と。それが子を失う大人の納得の仕方なのだろう。貧困による子供の死亡率の高さを考えずにはおれない。長い間、人間の世界に留まると、嫌なものが見えてくる。生きるつらさ、大人の抱える問題が理解でき始め、なんとか手伝おうとする精霊の世界から来た子。彼のまわりに常にいる精霊たちが、比類なき小説世界を作り上げている。ブッカー賞
2017/07/23
NAO
精霊の子どもは人間の母親から生まれてもすぐまた精霊の世界に帰ってしまうというナイジェリアのアビク伝説をもとにした、幻想的な物語。アザロが精霊界に戻らず人間として生きていこうと決心した理由が、何度も生まれたり死んだりすることに飽きたからでもあったが、「この子もまた死んでしまうのかしら」という悲しげな母親の顔を見てしまったからというのが、なんともいえない。連れ戻そうと誘う精霊たちのせいで道に迷って家に帰れなくなったり、仮死状態になったりするアザロのために苦心惨憺する両親の悲喜こもごもが、コミカルに描かれる。
2021/02/11
ヘラジカ
虚構と現実が完全にフラットに描かれているためその猥雑っぷりは中々凄まじいものがある。妖怪や精霊たちが雑多に入り乱れ狂宴を繰り広げる様は、これぞマジックリアリズム!という感じだ。そして奇想天外な怪異がはびこる世界を一皮剝くと、生々しいアフリカ社会が垣間見える面白さ(恐ろしさ)。流石はブッカー賞受賞作、ただの幻想文学じゃない。ひとまず休憩してから下巻を読もうと思う。
2016/10/08
ドン•マルロー
土と暴力と不条理にけぶるアフリカ。主人公の少年を取り巻く数多くの精霊たちの存在は、具現化した死そのものである。それは死との距離の近さを表徴するとともに、そのように表徴しなければおよそ得心することのできないあらゆる事柄をも内包しているのだろう。だが、作品のテイストは決して重苦しくなく、軽妙なアルペジオを奏でるように甘美なグルーブ感に満ちている。
2019/07/02
スターライト
ナイジェリア生まれでロンドン在住の作家による作品で、91年ブッカー賞受賞作品。精霊の子(アビク)であるぼくがある日、人間の世界に生まれた。アザロと名付けられたぼくは、いくら働いてもいっこうに暮らしが楽にならず、酒を飲んでは暴力をふるう父、物を市場で売って家計を支える母のもとで育つ。大女のマダム・コト、写真屋、家主らの個性的なキャラクターをまじえつつも、カネと暴力で村を支配する政治家などのアフリカの実態も反映させた作品。民衆の激しい抵抗にも筆を割いている。下巻の展開や、いかに。
2024/05/26
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