フローラ逍遥
フローラ逍遥 / 感想・レビュー
匠
美しい装丁にひとめ惚れして買って以来、澁澤氏の著書の中で実は一番好きな函入り本。美しいのは装丁だけでなく、椿、桜、チューリップ、苧環、向日葵、薔薇、百合、合歓など比較的身近な25種類の花について書かれたエッセイはもちろん、挿絵もまた素晴らしい。ボタニカルアートの花々はどうしてこんなにも郷愁を誘うんだろう。いつ読み返しても新鮮。わりと軽めな語り口なので一気に読んでしまえるのだが、書いてある内容は渋澤氏の幅広い知識と見解が凝縮されており、好奇心をくすぐられる。1つずつ寝る前に丁寧に味わいたい1冊だ。
2014/02/05
アン
25種の花たちに纏わる『博物誌』や詩歌などを引用し、澁澤さんの考察や思い出を添えたエッセイ。四季折々の花が咲く北鎌倉のご自宅のお庭が目に浮かび、紹介される植物の図版も美しく趣きのある素敵な一冊。水仙、椿、すみれ、桜、百合など、日本人が親しみやすい花が多く、懐かしさを覚え、儚く妖しい不思議なフローラの世界へと。ひっそりと清楚に、濃密な芳香を放ち妖艶に、可憐な妖精のように気まぐれに。神秘に包まれ、私達の心を癒し魅了する花の揺らめく旅。しっとりと咲く明月院の青色に染まる紫陽花に想いを馳せて。
2020/06/28
市太郎
綺麗でした。花にはそんなに興味がなかったのですが好きになりました。図版が写真で見るよりも親しみがあるようで味があってより美しく感じました。澁澤氏のエッセイも楽しめました。普通の図鑑では、なかなか味わえないような感覚が良かったです。自宅保管して時々眺めたいがハードカバーは絶版のようで至極残念。本好きの人には花束のかわりに贈物にするのも良いかも。少なくとも私がもらったら泣いて喜びます。誰か私に下さい。個人的にはスッパイ実が好きな「梅」や梅雨時に娘と数えて歩いた楽しい思い出があった「紫陽花」等が気に入りました。
2014/05/30
Y
花は古今東西の芸術作品に顔をのぞかせてきた。花の何も語らず意味ありげに佇んでいる様が、芸術家の想像力をかき立たせるのか。花に負けず劣らず日本語も美しいんだと思わされるほどの筆者の卓抜した言語感覚に惚れぼれとした。当然のことながら花には人間のようなたくらみがなく無邪気な印象があるけれど、それでもそのやわらかな描線はどことなく官能的で、数多くの花が美女にたとえられてきたのも頷ける。そんな花のエロティックな面に焦点をあてた文章が揃っている。個人的に「紫陽花」「牡丹」がお気に入り。全部家に植えてある花ばかりだ。
2014/07/09
yn1951jp
人はなぜ花に魅かれるのだろう。牧野富太郎も言うように、花は生殖器だからだろうか。植物は恋をしたときに惜しげもなく生殖器を広げて見せびらかすのである。動物の生殖器も恋もこんなには美しくはない。人は植物の恋にあこがれているのだろう。人は恋人に贈られた花に心を動かし、花は人類の歴史を翻弄する。園芸の歴史は植物の生殖器への偏愛の歴史である。昆虫と同じように人も花の下僕なのである。尾崎翠の『第七官界彷徨』では、主人公小野町子とともに蘚(コケ)も恋をしている。
2014/10/31
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