串田孫一 緑の色鉛筆 (STANDARD BOOKS)
串田孫一 緑の色鉛筆 (STANDARD BOOKS) / 感想・レビュー
jam
串田孫一の随筆40篇。「戦争は人間の愚かさを剥き出しにしてしまうが、都会の灯を残らず消させて夜空を星で飾った。」自然や現象から思索を展開し、宇宙の果てから人間の内面を俯瞰するような手法で筆を運ぶ。そして、視点を変え、針の穴から無限の宇宙を見、老成した視点で結ぶ。この世界に蔓延る争いや愚行への最大の武器は、人の精神、即ち「思考する」ことに尽きるのだと、つくづく思う。本作は「緑の色鉛筆」を表題に冠し、彩りに満ちた自然への言及もあるが、読後の印象は「漆黒に浮かぶ銀の月」のようでもあった。
2016/07/25
tamami
街角の小さな本屋で、串田さんの本を初めて手にしたのは何時のことだったろう。挿絵と文章がゆったりと組まれ、いかにも手作りという感じだった。著者は、生涯に400冊を越える著作を刊行したそうである。植物や小動物をテーマにしたエッセイストという印象を持っていたのだが、さすが400冊、ほんの数ページの作品にも、観察眼の確かさ、視点の面白さ、文章の味わい等々、これまで知らなかった串田さんの様々な世界が展開されていて、その後はあまり縁がなかったのが惜しまれる。「黒い雀」一篇に見る、著者の優しさとユーモアが印象的である。
2021/10/29
わっぱっぱ
東京で案内してもらった小さな書店でひと目惚れした平凡社STANDARD BOOKS。サイズ、装丁、紙質、そして著者のセレクトも素晴らしい。 あらゆるものが機械化され合理化されている今、串田氏が好きだという印刷作業も人の手による調整などは殆ど行われていない。必要と便利だけを追求した物づくりや学習に孕む危うさについて、私たちはもっと考えなければならないのではないか。借り物でない、本物の知性を感じる随筆集。言葉も、天気も、昆虫も、篆刻や音楽も、根っこのところは同じなんだなぁ。自分の目で捉えるところから始まる。
2017/05/09
チェアー
達意の文章とはこういう文を言うのだろうか。他人にも機械にも頼らず、自分の手で作業と思考を重ね、それを素直な文章で表現する。言葉は洗練されていて、かといって凝っているわけではない。読んでいてもうかなわないなあ、という気になる。世に阿らず、自然と先人を重んじる。そして風のようにふんわりと生きる。こんな生き方はあこがれではあっても、到底到達できそうにない。
2016/08/22
クロメバル
「隠れている姿」より。「滅多にはないことだが、こうして文字を連ねて文章を綴りながら、その時の自分の偽りのない気持ちを表現するために、偶然うまい言い廻しをしたと思ったそれは、記憶から一応離れたようにして、何処に存在しているのか。或いは又、密かに懺悔したつもりで有耶無耶に葬ってしまったことはどんな姿で残っているのか。」私の中にもある言葉にならなかった思い。苦しかったあのときの、孤独な、蒼い、あの場所。出逢えてよかった文章でした。また言葉と向き合いたいと思いました。
2021/05/16
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