漱石論集成 増補 (平凡社ライブラリー か 26-1)
漱石論集成 増補 (平凡社ライブラリー か 26-1) / 感想・レビュー
風に吹かれて
①1969年~99年に書かれた漱石に関する文章を収録。 たとえば『門』では宗助が参禅するが、話の流れを閉ざすような印象で、書かれていない何かを感じ、読み取りの甘さを読むたびに反省していたような気がする。そういったことに対して、本書の中の、とりわけ『意識と自然』と『内側から見た生』が示唆的だった。 漱石が見ている人間の自然は存在に本来的に付きまとう不安であり、漱石の写生文(とりわけ『彼岸過迄』以前は)と『夢十夜』にみる漱石の内側の生の捉え方が、ひとつの読みを提供してくれる。
2021/02/16
あまん
柄谷氏の文章は分かったようで分からない。それは、ある語句を明確に定義せず、ある種、自明のこととして論を進めるからだ。私の消化しきれず読んでいるだけかもしれないが。さて、恥ずかしながら、夏目漱石の立場がようやく理解できたように思う。彼は、筋と「客観的」な描写を重視する近代知識人に抵抗したのだろう。また、漱石の小説は倫理的な問題として解釈されるが、その解決方法は存在論的なものとなっているという指摘は興味深い。近代知識人的な人物の自我への苦悩は、『明暗』において全登場人物の普遍的問題に拡大されるのだ。
2024/02/21
ken
ボリューミー(ページ数の問題ではなく)でとにかく読み応え大。文章からほとばしる熱量も凄い。柄谷によれば『門』『行人』『こころ』には構造的な断絶があって、それは作品の中盤において漱石の筆が「倫理的問題」から「存在論的問題」へ飛躍せざるを得なかったからだと。一般的には歓迎される主張ではないと思うが、漱石を「存在論的な作家」として読むのは新たな視座だし刺激的だとも思う。「存在」を畏怖する漱石に共鳴する柄谷もまた「存在することの異和」を感じている。本書の隅々からは、言語以前の「未分化な世界」の可能性が感じられる。
2020/01/31
madofrapunzel
★★★★★ 圧巻、圧倒の内容! いろんな漱石論が収められてます。個人的に特にオススメなのは、「詩と死―子規から漱石へ」と、やっぱり「意識と自然」!! 「意識と自然」は名文すぎる!! 漱石を通してというか、一人の文学者/哲学者を通して思考することでこんなにも深みと広がりをもたせることができるのは柄谷さんしかいないんじゃないかと思う。
2013/11/26
あなた
学究に青春というものがあるとしたらたぶんここにある。今となっては、「古典」になってしまった柄谷だが、本書を読めば漱石研究史が刷新されるときのその衝撃の瞬間に立ち会うことができる。いかに漱石テクストが現実界=リアル=他者を抱えこんでいたか。いかにそれが近代的自我によって蹴落とされてきたかが柄谷によってテッケツされていく。インターテクストの時代において、夏目漱石は明らかに柄谷行人の漱石論を読んで/読まされ、そのエクリチュールに変容を迫られている。
2009/07/22
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