三つのエコロジー (平凡社ライブラリー)
三つのエコロジー (平凡社ライブラリー) / 感想・レビュー
ハチアカデミー
B エコロジーのパースペクティブを、社会・精神・情報における環境にまで広げ、現代社会の行き詰まりを乗り越える視座として提示。現象全てを記号化し、全てに「意味」を見出そうとする社会と、主観性がメディアによってコントロールされる社会の棲まう現代人は、単一化された価値観の中でもがいている。そこから脱却するためには、エコロジー、つまりいまある社会や精神の環境を変える必要がある。それは、意味に換言されない芸術的手法によって可能となる。本書はその変化の可能性への言及に止まるが、その答えは読者が試行錯誤するしかない。
2013/02/19
なっぢ@断捨離実行中
冷戦以後で唯一、大きな物語として通用しそうな環境主義を考える上で欠かせない本である。ガタリは問題を包括的に論じるためエコゾフィーなる用語を使っている。これは環境と社会的諸関係と人間的主観性(実存)のエコロジーの繋がりを一語で表したもので、個人の心の有り様(もちろん環境や社会との相互作用により変化しうる)をも対象に入れてるのが実に精神分析家らしい。資本主義が消費、強いては精神の画一化を推し進めてる今、彼の鋭い洞察を無視することは不可能だろう。生きずらさから『真っ当な』政治に目覚める道標としても使えそうだ。
2017/01/17
アルゴス
ガタリの晩年の書物。自然のエコロジーだけではなく、精神のエコロジーと社会のエコロジーがあるというのは、今では周知のことになった。「この地球上における人類の延命は、環境の劣悪化だけではなく、社会的連帯組織や精神的生活様式の退廃的変質によっても脅威にさらされている」(96)のである。そしてこうした退廃こそが、とくに克服が困難なものである。近代の歴史を「主観性の歴史」としても読み解けるという示唆は興味深い。
2018/01/25
またの名
いわゆる温暖化や空気汚染といったエコロジーの話などほとんど出てこないタイトル釣り本の一つ。そういったエコ運動のことを、環境・社会・精神領域のエコロジーが市場経済、メディア、記号、幻想、無意識、教育、政治、性、家族…を横断するアジャンスマンの視点から考察されるべきことをむしろ軽視すると難じる。それぞれの場面で特異的に活用できそうなヒントはたくさん詰まっている(ガタリが特に期待するのは芸術)。メタ視点から大きな物語を云々することもできない時代に、社会全体、それどころか宇宙を彼方に仰ぐ横断性の魅力は一層輝く。
2013/07/17
Bevel
すべての人間を「芸術家」やら「美的なもの」やら「特異性」へと駆り立てる、ガタリによる闘う主体性の論理は、どこか息苦しさも感じさせる。切断する部分対象や、プロセスを単位とする混交の話、動的編成という抽象的なものに時間を導入する反復、領土を限定するリフレインなどの着想は面白いが、すべてが全体的に機能する中で、ガタリこそ資本主義というブラックホールを背負って動的編成というホワイトウォールにくぎ付けにされているように見える。リビドーと、資本主義のポジティブな面について、もう少し読みたいなと思った。
2012/10/22
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