マグナ・グラエキア (平凡社ライブラリー)
マグナ・グラエキア (平凡社ライブラリー) / 感想・レビュー
つーさま
マグナ・グラエキアとは、古代ギリシアの植民地で、現在のイタリア南部にあたる地域のことをいう。解説によると、著者であるホッケは、若い頃かの地を放浪し、その経験を元に本作品を執筆したそうで、小説というよりかはむしろ旅行記という方が正しいかもしれない。文明の古層をめぐる彼の旅は、豊富な知識に彩られ、浅学な私にとってはただその足跡を追うだけでも苦労したが、筆致そのものは瑞々しく、知性とうまい具合にドリップされていて味わい深かった。
2013/10/15
roughfractus02
イタリア南部を指すMagna Graecia(大ギリシャ)は古代ギリシャの歴史が伺える場所だという。その地の紀行文を書く著者は、夥しい引用を駆使してイタリアに古代ギリシャの痕跡を抽出し、ギリシャ神殿にピュタゴラスの音楽を思い、西洋文化とその思想の本質を見出していく。が、これは始原への旅ではなく虚構への旅ではないか、と思う痕跡が本書に散見されるのも確かだ。既成の虚構作品や美術用語からの登場人物の命名や聖母のガラスの眼に義眼を思わせる章題の仄めかしは、虚構の効果が薄れれば現実と呟きたがる人間の傾向を示唆する。
2019/09/15
belier
マグナ・グラエキアと呼ばれるイタリア南部の旅行記小説。若いドイツ人の語り手が古代ギリシアの都市遺跡を訪ねつつ、当地で出会う人と対話を重ねて意識を古代ギリシアの知的世界へ遡らせる。解説によると、そこにはヒトラーの台頭を許してしまった作者の母国ドイツへの鋭い批判がこめられているという。そこまでは読み解けなかったが、自然と遺跡の美しい描写と古代ギリシアからノルマン朝までの生き生きとした歴史の語りを大いに楽しめた。
2015/05/16
Hiro
かなり苦労して時に眠りそうになりながらなんとか読了した。修飾語の多い詩的な文章で綴られる南イタリアの探訪記。但し架空の一青年の三人称の物語という、体験の客観化が施されている。著者は高名な文化史家でギリシアローマの古典やヨーロッパの歴史、美術、文化の分厚い知見を活かして本書を書いているのにこちらには全くそうした蓄積がないので書かれていることの半分も理解できていないという悔しさをずっと抱きながらの読書であった。でも背伸びでも幾分かは分かる。古代遺跡をめぐり歴史を辿る旅の様子は十分に憧れを満足させてくれた。
2023/08/28
コマイヌ
96年発行のハードカバーの方。論文だと思ったら旅行記かと思ったら小説だった。適切で雄弁な隠喩の適切性がどこかで欠けていて原文を想像するだけだ。研究対象の神格への抑えがたい讃歌は徹底した抑圧あってこそなんだなと思った。ローマ・イスラームで上書きされなかったギリシアの残る南イタリアなるものには絶対行きたいなと思った、暗闇の母娘双神とその息子に会いに…
2022/04/01
感想・レビューをもっと見る