幸田文 台所帖
幸田文 台所帖 / 感想・レビュー
nina
「いま私はようやく静かな台所にいる。」冒頭の文さん61歳のエッセイにこんな言葉があった。大人になって本格的に料理をするようになると自分の発する気配というものにときどきはっとさせられることがある。たいがいは焦っていたり他に気がいっていたりで無意識に荒々しい音を響かせて自分で驚くことが多い。そんな時は当然作った料理も味が落ち着かないものだ。迷いなく料理と向かい合いたいと思うほど失敗も多い。女の強さや優しさ、そして生来の江戸っ子らしい潔さが滲んだ文さんの言葉に心を温められ気づけばそんな肩の力みもとれていた。
2014/10/03
yuki**
父親が作家幸田露伴。娘の文は随筆家。露伴はしつけに厳しかったようだが、文は自分の子どもたちにそこまで厳しくはしていないように感じた。受け継いでる面も多々あることは分かるが、文章にユーモアさも感じたのが魅力的。辻嘉一さんとの対談は、料理をする側の気持ちがひしひしと伝わってきて実に興味深く、深く共感。小説"台所のおと"は、自分に置き換えて考えてしまった。私はどんな台所のおとを出してるのだろう。"おいしいおはなし"で出会えた幸田文さんの食に関する随筆集。装幀がクラフトエヴィング商會だったとは。嬉しい出会い。
2017/01/24
山猫
これも全集から。ただし、食い意地の張っている私であるから、しつけ帖とは違い、ざっくりと読んだ。「そうそう、カナッペのイクラの話、懐かしい」と思いながら、「文さんはたしかサケには魚偏に『生』の字を使う人だったが、これは『鮭』にしてあるな」と変なとこに気がついてしまった。 あとがきはご令孫の青木奈緒さん。「切り目正しからずは」に拘って大変なことになってしまった小学生時代のスープの思い出。天国の文さんはもう悲しんだりしていないと思いますよ。
2022/03/23
えみさん13
瑞々しい随筆で、すっと心が整う気がします。若き父露伴の口うるさいこと。はたで読んでいて逃げ出したくなるくらいなのに、くよくよ愚図愚図していないのが幸田文さんの素敵なところ。【(父は)私が進歩しないといって、「何を話してやっても‘たし’にならない」と嘆いていたが、私にはそれが「文句は‘だし’にもならない」という連想がきてしょうがなかった、という次第なのだ。(『まつたけ』)】読み終えるのが惜しいくらいだったが、とくに『正月記』がよかった。年月がえぐって、あるいは磨いたひとの円み と淋しさ。繰り返し読みたい。
2013/10/02
ぐりぐら
幸田露伴を父に持ち、その父の食に対する強いこだわりと美意識を厳しく教えこまれた娘の随筆集。読み進めるほど、自分の日々の食事作りや家事がやっつけ仕事になっている事に気づかされ反省。せっかく日本と言う国に生まれ生活をしているのだから、日本語の美しさ、食だけでなく生活に四季を感じることを日々大切にしていきたいと改めて思います。後ろに短編「台所のおと」が収録。それも良い。
2015/02/14
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