プロレタリア文学はものすごい (平凡社新書 57)
プロレタリア文学はものすごい (平凡社新書 57) / 感想・レビュー
パトラッシュ
ある文学運動に関する研究は属した作家の思想やテーマ、文体や芸術性が中心に論じられ、文学史に組み込まれ「文学の常識」となっていく。「抑圧された労働者の厳しい現実を描いた文学」とされた戦前のプロレタリア文学の常識を、著者は軽く覆す。リアリズムであるはずのプロ文作品にひそむホラーやSF的要素、生々しい性や生理絡みの描写や露悪性など何でもありの凄まじさは目から鱗であるし、島崎藤村や志賀直哉までも含めようとするのだから。戦争と貧困に引き裂かれた不安の時代に咲いたあだ花を、現代の基準で裁断する愚かさを思い知らされる。
2021/02/02
白義
確かにものすごい、この本もプロレタリア文学も。プロ文の中の、今の陰残リアリズムやエログロ、SFホラーといった作品もビビるような多彩な要素を縦横に語る。プロレタリア文学自体の意味を拡張したセンスオブワンダーなガイド。昔のプロレタリア文学の可能性に気付かされると共に、現代小説から新しいプロレタリア文学を探す眼差しも教えてくれる。志賀直哉や島崎藤村のような定番作家の新たな楽しみ方も学べる、濃くて凄まじい一冊だった。平凡社への愛もあるのが面白い(笑)
2012/09/08
ndj.
蟹工船はホラーである、うん、そうかもしれない。プロ文、という前提があるばかりに、肩肘はって、深遠なもの、深刻なものを読み取らなければならないのだ、という思い込みを粉砕してくれる面白さ。平凡社がこれを出すのだから、読者の側もプロ文の軛からもう解放されていいのだろう。
2016/09/27
宙太郎
今では書く人はおろか読む人さえそれほど多くないプロレタリア文学を、ホラー、探偵小説、SFなどとして読んで楽しもうという一冊。とは言え、この本を読んだからと言ってプロレタリア文学が面白くスイスイ読めるようになるわけではないと思う。僕にとって、プロレタリア文学以上に興味深いのは、著者である荒俣氏の「どんなことでも面白がってしまう」天賦の才能の方だ。まるで自分を騙してまであらゆることを面白がろうとしているように感じられるこの性格こそ、情報が溢れかえっている現代を楽しく生きるための必要条件ではないだろうか。
2023/10/27
AR読書記録
荒川洋治『文学の門』から興味を持って。プロレタリア文学とホラー・エロ・SFといった“意外”な組み合わせからその“ものすごさ”に目を向けさせておいたうえで、じゃあいったいプロレタリア文学って何だったんだろうとか、どうあるべきだったんだろうとか、本質的なところにも引っ張っていく。平田篤胤まで射程に入っているとか、島崎藤村や志賀直哉を新たな文脈で読み直すとか、やっぱり荒俣大人やのうという広さ深さ。女性視点への言及もばっちりよ。労働と社会をめぐっては今も問題山積、新たなる形のプロレタリア文学の出現を待つ。
2014/11/29
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