(005)音 (百年文庫)
(005)音 (百年文庫) / 感想・レビュー
pino
『台所のおと』 妻が台所仕事で出す音は、「角を消した面取りみたいな柔らかい音だ」と、料理人の夫は、傍の病床から聞きながら思う。妻は、夫の深刻な病状を、気遣い「料」をする。夫仕込みの指先から、たつ「料」の音が、夫の何よりの慰みになるからだ。台所の音、ひとつひとつが、様々な言葉で表現されていた。くぐもった、氷のかけらのような、艶がかった音・・・嫌な女のたてる、嫌な音もあったが、幸田文は、禍々しく書くのではなく、性(しょう)の面白さと捉えていたと思う。自身の人生の深みを感じた。美しい文章に感激して音読してみた。
2012/08/24
藤月はな(灯れ松明の火)
「台所の音」は久し振りに「夫婦って良いなぁ」と思った作品。やっと巡り会えた気心が知れた夫婦の何気ない日常生活の描写が逸品。特にテーマになっている音は素晴らしいとしか言えない。読んでいる此方にも包丁で菜を刻む音やお米を研ぐ音、笊で水を切る音や具が煮える音などが聞こえていました。しかし、ロクでもない前妻のまんが包丁をお櫃にトッと立てるシーンは肝が冷えた。嘗ての連れ合いとの巡り合わせが悪かった2人が出会えたのはつくづく、良かったなと思わざるを得ない。「深川の鈴」は惚れた男の才能と夢を信じるが為に身を引くお糸さん
2018/08/09
えみ
夫婦の絆は日常の音で繋がっていることを実感させてくれる、幸田文『台所のおと』。遠い日の愛しい記憶は軽やかな鈴の音とともに甦る、川田松太郎『深川の鈴』。優しい音が優しい娘の心音を映し出す、高浜虚子『斑鳩物語』。3つの物語から響く三者三様の『音』が紡ぎだした懐かしいような切ないような…心に残る短編集。百年文庫シリーズ第5弾。ここにきて全員はじめましての作家さん。長編をじっくり読むのもいいけれど、短編で相性を見てから新たな小説を手に取るという可能性を残した読書にしたいと思って読み始めた。思惑通り、出会いがある!
2022/10/02
モモ
幸田文『台所の音』料理屋を営む佐吉が病気になり、妻のあきが代わりに料理をする。その料理の音を聞く佐吉。料理の音には人となりが出る。佐吉は前妻がたてる音は嫌だったが、あきの音は優しくて好きだ。ふとしたことで心を通わせる夫婦の様子が心地よい。川口松太郎『深川の鈴』下町の深川で新しい家族ができそうだったが、男の才能に女は結婚を諦める。諦めなくてもいいのにと思いつつ、その後の女の孫との再会は縁の不思議さを思わせる。高浜虚子『斑鳩物語』奈良の法隆寺の春の美しさ。春の音と人がたてる心が入った音の合奏が心に残る一冊。
2022/08/30
Comit
県立図書~文豪の名短編を編纂した1冊。幸田文、川口松太郎、高浜虚子~幸田文『台所の音』障子越しの生活音。死期を悟る病床の夫は妻の行く末を案じ、不安を悟らせまいと妻は日々を繰り返す。心の機微、夫婦の思いが切ない。~川口松太郎『深川の鈴』作家を夢見る若者と働き者の未亡人、叶う夢、叶わぬ恋、うーん、(´•ω•̥`)~高浜虚子『斑鳩物語』優柔不断男には、押しの強い女性が一番✨テーマは『音』、それにふさわしい3作品でした。
2022/03/20
感想・レビューをもっと見る