(009)夜 (百年文庫)
(009)夜 (百年文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
各3話とも人生の昏がりの予感に包まれている。「夜の樹」は既読。「曲がった背中」は愛する者を信じられずに置いていってしまった男の懺悔と贖罪に瞠目。確かに償っているという気持ちは自己満足になりかねない。しかし、ここまでしんどい己の罪の向き合い方があっただろうか。最後に浮かび上がる二人の姿は、人間の不信を抱えて生きていくしかない人間そのものだ。シャーウッド・アンダスンの「悲しいホルン吹きたち」は大人や社会を見て未来に希望を持てない今の世代にとって突き刺さる。そしてウィルに付き纏う老コルネット吹きは彼の未来の姿だ
2018/08/11
mii22.
夜は世界を変える。夜は別の顔をみせる。そして、夜は人生の悲哀に満ちている。好奇心、誘惑、不安、恐怖、暗闇が膨張するように昨日までの日常を侵食する。周りのものが異常に、非現実的に見えるのは夜の暗闇にだぶだぶ飲み込まれ惑わされるからなのか。なのに心に変化をもたらすのはいつも夜。何らかの答えを見つけられるのも夜。そして涙を流すのも終わりを告げるのもやはり夜だった。歳を重ねた今、あぁ、私の半分は夜つくられていたのだと思うと急に夜が、暗闇が、怖いものではなくなった。
2020/01/06
えみ
ジットリとした人生の悲哀を見せられた3篇の短編集を収録した『夜』。百年文庫シリーズ第9弾。汽車で同席した男女2人組の無作法で独善的で背筋を這いあがってくるような嫌悪に感情を澱ませた娘を描いた、カポーティの「夜の樹」。後悔の過去と責任の在りかを戦後の酒場で出会った暗い背中の男が語る、吉行淳之介の「曲った背中」。少年は大人になることを急かされ、受け入れられない心と許されない現実の狭間で混乱しながらも成長していく、アンダスン「悲しいホルン吹きたち」。静夜に一人取り残されたような孤独が漂う物語は少し戸惑いを残す。
2022/10/30
モモ
カポーティ『夜の樹』夜の電車で相席になった背が低い男女。最初は優しかったが、じきに荒々しく若いケイに接する。見世物として働く、やり場のない怒りをぶつけるように。そしてようやく夜が明ける。カポーティ初読み。表現方法が好み。他の作品も読んでみたい。吉行淳之介『曲がった背中』空襲の夜に一人防空壕にいた女。その夜はまだ明けない。アンダスン『悲しいホルン吹きたち』母が突然亡くなり、お調子者の父親の失敗で、自立することになったウィル。少年から大人になる少し前の葛藤が夜明け前のよう。きっともうすぐ夜が明ける。
2021/07/25
こばまり
ゾロ目(3人とも好き)だとうれしくて既読も構わず手に取る。吉行淳之介「曲がった背中」はつげ義春画伯で読んでみたい。なんだか寂しくなってしまった。
2021/02/24
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