(014)本 (百年文庫)
(014)本 (百年文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
「煙」は、好きなことを仕事にする事とそれで食っていく事には溝がある。糶り落とした本を手際よく、纏める少年達と本が好きな余りに売れるかどうか分からない乱丁本を掴まされる耕吉の差がほろ苦い。「シジスモンの遺産」は既読。再読すると「!」の多様や並々ならぬ執心を抱える人々のテンションが高すぎ。本のためならどんな手も使うラウールや本に台無しにされた若き日とプライドのために復讐を果たさんとするエレオノールのやりとりは壮絶さを通り越して喜劇と転じているのが何ともまあ。それにしても『貞淑な処女と奔放な処女の諍い』て(笑)
2018/08/24
えみ
ときに心酔し、ときに鬱勃とした気概を、あるいは愛書家としての誇りを感じずにはいられない。書籍に関わることを通して湧き上がる情動が迸るような3篇の短編を収録した『本』。百年文庫シリーズ第14弾。古本の価値、自分の価値、青年の痛みを伴うくらいの憐憫が切ない、島木健作の『煙』。もはや狂気すら感じる書への愛が止まらない、ユザンヌの『シジスモンの遺産』。図らずしも青年に生きる指針を定めてもらい…人生の意味を知る、佐藤春夫の『帰去来』。本と人生。先が読めないからこそ何が起こるか分からないドキドキ感がある物語に出会う。
2022/12/05
アルピニア
「煙/島木 健作」作家への思い入れから古本を相場より高値で落札してしまったことを後悔する主人公。「どうやって生きていったらいいものだろう」という問いに対して過去と現在の気持ちを見つめる場面が苦しい。「シジスモンの遺産/ユザンヌ(生田 耕作 訳)」稀少本をめぐる攻防。コレクターにとっては宝物でも彼女にとっては、坊主憎けりゃ・・なのだろう。でもそこまでしなくてもと思ってしまった。「過去来/佐藤 春夫」作家志望の青年が上京して本屋に弟子入りし、また帰郷するまでを描いた物語。独特な切れ目のない文体が印象に残った。
2022/01/13
モモ
島木健作『煙』叔父の代わりに古本市の競りに参加したものの、あまりに高く本を買ってしまい落ち込む耕吉。作者の誠実な人柄が伝わる文章。悩んでいることが身近で、作者がもうこの世にいないことが不思議に感じられるほど。ユザンヌ『シジスモンの遺産』本に狂ったギュマールはシジスモンの蔵書を手に入れるために、愛してもいない女性と結婚までしようとする。女性は本を徹底的に痛めつけギュマールは天に召される…。佐藤春夫『帰去来』句読点がない文章だが、不思議と読める。本の内容よりも谷崎潤一郎の妻と不倫の末結婚した作者に興味が出た。
2022/11/18
あじ
コレクターの遺した蔵書を巡り、愛書家の男と寡婦がキチガイじみた応酬を繰り広げる、ユザンヌ『シジスモンの遺産』/相容れない欲望と復讐、その執念に嗚呼合掌。島木健作『煙』/いい歳をした居候の主人公が、自身の不甲斐なさを思い悩む中で生きていく事こそが最良なのだと悟る。心境の過程がつぶさに描かれた佳作。その他 佐藤春夫『帰去来』を収録。
2018/11/25
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