掟 (百年文庫 20)
掟 (百年文庫 20) / 感想・レビュー
アキ
戸川幸夫「爪王」1955年・ジャック・ロンドン「焚火」1908年・バルザック「海辺の悲劇」1835年の3作品。どの作品も強烈な印象を残す短編。文字も大きく読みやすい。「爪王」では鷹匠と誇り高き鷹との交流を、「焚火」では徐々に凍傷で感覚がなくなる手足と火を失うとたちまち生命に関わる状況とそれをみつめる犬、「海辺の悲劇」では生真面目な漁師の放蕩息子への処罰がもたらす一家の悲劇とそれを目の当たりにした主人公。容赦ない厳しい自然とそれに向き合う人間や動物たちの姿。この3作品を束ねて「掟」と名付ける企画に脱帽です。
2021/02/26
藤月はな(灯れ松明の火)
「焚き火」、「海辺の悲劇」は既読。「爪王」が本当に抜きん出て素晴らしい。息を吸うと肺が痛くなるような冷たさ、雪に照らし返される光の眩しさ、爪の鋭さなどの五感で感じる様が感じられるから。自然界の生存に組み込まれた自由と種を残すための厳格さに息を呑んだ序盤。対し、一生の誉に賭ける鷹匠と出逢った事で彼女の運命は変わる。情を持ちながら自己を律し、矜持と獲物に立ち向かう毅然さを纏うようになった「吹雪」。彼女の初仕事の鮮烈さには読んでいる此方も誇らしくなる。それにしても羚羊という言葉、久々に見たな・・・。
2018/09/02
風眠
自然というものの美しさ、それは作り物かと思ってしまうくらい美しいけれど、絶対に人工的には創れない美しさ。しかしその美しさと同じ分量で、人間には太刀打ちできない凶暴さがある。自然を舐めてはいけない。圧倒的な美しさと凶暴さがあるから、自然には厳然とした崇高さがあるのだと思う。『爪王』(戸川幸夫)の中に、こんな一文がある。「鷹匠は若鷹に「吹雪」と名附けた。命名は野生との決別を意味する」衝撃の一文だった。物語の筋とは関係ない子どもの虐待とか震災という事まで考えさせられた。深い、としか言い表せない自分がもどかしい。
2018/09/18
えみ
厳しい自然界の中で命を張って生きる動物と人間の厳粛な事実をありのままに写し取り描いた物語。彼らは何を残し何をかき消して歩んできたのか。命の力強さと脆さに胸を突かれる3篇の短編を収録した『掟』。百年文庫シリーズ第20弾。老鷹匠と若鷹「吹雪」が強固な絆のもとで織り成した覇者への道に感動させられた、戸川幸夫の『爪王』。極寒…容赦なく牙を剥く自然に生命を預けた、ジャック・ロンドンの『焚火』。「誓いを立てた人」と呼ばれている人の真実が衝撃と動揺を誘う、バルザックの『海辺の悲劇』。掟の下で揺らぐ光と影を見つめる一冊。
2023/01/23
肉尊
『爪王』(戸川幸夫):老鷹匠が野性味溢れる雌鷹に惚れ込み、鍛えぬかれた鷹が赤狐と壮絶な闘いを繰り広げる。再戦時には過去の失敗経験が財産となって活かされており、野生の吸収力の凄まじさを見せつけられる気がした。自然は、生命のやり取りが行われている修羅場であることを再認識できた。
2022/11/19
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