(031)灯 (百年文庫)
(031)灯 (百年文庫) / 感想・レビュー
風眠
家々や路地の灯火。真っ黒い夜にぽわんと灯る明かりは、きっと人々の心にも作用しただろう。友人と「縁起悪いよ」的な話をしているうちに不安になり、婚約者のもとへ猛ダッシュする青年が可愛い(『琴のそら音』/夏目漱石)。日本人とは違う色街の風景描写、けれど日本的情緒漂う(『きみ子』/ラフカディオ・ハーン)繊細さと美しさが心に迫る。(『熊手と提灯』ほか三編/正岡子規)随筆ではなく写生文と呼ぶのだそう。その時に見えたもの、その時の心、今まさにそこにいるような臨場感。この感性がぎゅっと凝縮されたものが、子規の俳句なのだ。
2018/11/06
えみ
ぼんやりとした灯りが仄暗い景色を映せば、一方では人の心に灯る優しい光。暗闇のなかでは愛おしいその灯りは明るさのなかでは消えてしまう。目の前が暗くなるような迷いを持つとき、そっと照らしてくれるような物語。3人の作者が書いた6篇の短編を収録した『灯』。百年文庫シリーズ第31弾。不穏と不安が入り混じる情景が目に浮かぶ、夏目漱石の『琴のそら音』。深い芸者の愛に温かな気持ちになる、ラフカディオ・ハーンの『きみ子』。機敏な感情を切り取った、正岡子規作品4篇。文章表現の素晴らしさを改めて感じることができた貴重な1冊。
2023/04/09
アルピニア
「琴のそら音/夏目 漱石」占いの結果が次第に気になり・・というサスペンス様の物語。顛末の数行に茶目っ気を感じる。「きみ子/ラフカディオ・ハーン(平井 呈一 訳)」本題に入るまでの挿入部分がまるで美しい映像を見せられているようで秀逸。芸妓「君子」が貫いた生き方。これはハーン氏が惹かれた日本が描かれているのだろうか。「飯待つ間 他3篇/正岡 子規」ひとつひとつの文は短いが、確実に心に刻まれ、ジグソーパズルのピースのように情景を形作っていくような文章。本質を見抜いて無駄なく表現するからかもしれないと思った。
2022/03/16
モモ
夏目漱石『琴のそら音』未来の妻の具合が悪い。妻の婆やが新居が鬼門のせいだと心配するも、私は気にかけずにいた。だが頭が良い津田君にまで心配されて、いよいよ不安になる私。待ち受ける結末が灯りのよう。ラフカディオ・ハーン『きみ子』芸者の話。なぜ幸せになってはいけないのか。正岡子規『飯待つ間』『病』『熊手と提灯』『ラムプの影』病は今のコロナで上陸できなかった船を思い出させる。熊手と提灯の描写が幻想的で美しい。自分が福の神になったつもりで、誰に福を与えるか考えるのは楽しそう。どの作品も子規自身の病を感じさせる。
2021/01/17
壱萬参仟縁
漱石「琴のそら音」。働いておらぬ貧民は、貧民たる本性を遺失して生きたものとは認められぬ(33頁)。YouTubeも同様か。まだ趣味の段階にすぎぬ。インフルエンザ、今もコロナ拡大前にA型になり、タミフルで非常に効いて驚かされた口。ハーン「きみ子」。君子はちいさい時から、折り目正しく、きちょうめんに育てられた(83頁)。子規「飯待つ間」で猫をいじめてはいけない(106頁)。「病」で、虚子や碧梧桐が来る、と結ばれる(117頁)。病床にあって来客は苦しい。
2021/05/30
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