(035)灰 (百年文庫)
(035)灰 (百年文庫) / 感想・レビュー
たーぼー
カメレオンの異様なまでの立体的な造型に囚われるごとに倦怠が覆ってゆく男…。あの運命の日(S20.8.15)を越して、こちら側へやってきた男の新世界への不安…。いづれも灰色の世界に置かれた一人の人間的体験が淡々と綴られているにすぎない。だからこそ、自分の大部分も彼らのような感覚、観念と同等に配置されていることを痛烈に指摘されたようにも感じる。そして、文学に表現された生そのものの意味に嘲笑と微笑みを投げかけ、自らを見つめる行為に勤しんでいるわけだ。さて、今後、どれだけの情熱と幻滅の「物語」に接するのだろうか。
2017/06/07
風眠
黒くもないし、白くもない。その中間が灰色だとしたら、それはもう灰色だからそのままでいい。私自身、そう思えるようになったのはここ数年のことだ。黒か白か納得できる答えを人は求めてしまうけれど、はっきりさせない事で心が平穏でいられると思う。灰には色の名前のほかに、燃えかす、生気が失せた、という意味もある。灰色の現実と灰色の心、外側と内側の『灰』に焦点を当てた三編の物語。そんなに自分を掘り下げて考え続けなくてもいいよ、思わずそう言ってあげたくなる(『かめれおん日記』中島敦)。答えなんて出ない、殊に自分の心の事は。
2018/11/10
モモ
中島敦『かめれおん日記』高校の授業で山月記は読んだが、それ以外の作品は初めて。『人間はいつまでたってもなかなか成人にならないものだと思う』の言葉が心に残る。他の作品も読んでみたい。石川淳『名月珠』少女に自転車の乗り方を教わる私。ひそかに尊敬する詩人の藕花先生の家が火事で燃える際、原稿のみ持ち出し静かに自宅が燃えるのを見つめる藕花先生の姿に自分の心持を新たにする私。島尾敏雄『アスファルトと蜘蛛の子ら』終戦を前もって知った私。生きていて良いのか逡巡する様子が特攻隊隊長だった島尾氏自身の姿と重なる。好みの一冊。
2023/01/31
神太郎
さらっと読める感じで良い。どれもちょっと卑屈っぽい感じが出てる作品だなぁと思った。それゆえにそれぞれが似たような雰囲気でありつつ印象深いのかなとも思えた。分量的にも丁度良い。
2016/11/08
鯖
中島敦「かめれおん日記」カメレオンを預かった教師の内省。あんま教師に期待しちゃいけないのはいつの時代も一緒。どんな職業についていてもいい人もいれば悪い人もいるのは一緒で、犯罪犯したら法にのっとって裁けばいいだけだよなと兵庫方面を見やりつつ。島尾敏雄「アスファルトと蜘蛛の子ら」は終戦二日前に終戦のことを知ってしまった軍人の夢とうつつを行き来する内省。昭和帝の玉音放送に「一億総玉砕の呼びかけだと思ったのに、突然命拾いした」というある市民の日記を思い出す。終戦で灰色から薔薇色に変わる訳でもなく、ただ当惑よなあ。
2020/10/14
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