(044)汝 (百年文庫)
(044)汝 (百年文庫) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
「我」と「汝」をテーマにした3つの短編を収録。石川達三の「自由詩人」が面白かった。人の心に食い入る詩を書きながら、生活は破綻している山名の哀しい一生。若いうちは天衣無縫の詩人としてそれなりに魅力を感じる山名が生活に追われて、落ちぶれていく姿は痛々しく感じた。作者は戦中や戦後の庶民の生活をさりげなく物語の背景に描いており、そんなところに社会派作家としての視点の確かさを感じた。山名の最期は無残なもので、読み手の心に突き刺さる。作中の架空の詩は見事なもので、作者が詩的な感性を持っていたことを実感できた。
2014/11/09
モモ
吉屋信子『もう一人の私』生まれてすぐに死んでしまった双子の姉。私にそっくりな双子の姉が私の前に現れる。そして私になりすまして…。ちょっと怖い話。山本有三『チョコレート』大学を卒業したが職がない恭一。会社の重役だった父が職を準備だててくれたものの…。正義と義理をとおすが何とも言えない結末。石川達三『自由詩人』詩人の山名英之介は才能はあるが生活力がない。その山名に翻弄される夫婦。時折ある山名の詩が確かに良い。返す気もない借金を重ね、妻子を軽く扱い、破滅に向かう山名。他者と自分自身との関係を考えさせられる一冊。
2022/08/28
アルピニア
汝に向き合う自分が浮かび上がる3篇。「もう一人の私/吉屋信子」自分には生まれてすぐに亡くなった双子の姉がいたことを知った私は、自分にそっくりな人に出会う。不可思議な体験。「チョコレート/山本有三」恭一は、親の敷いたレールを、友のために蹴ったのだが・・題名が虚無感を示していて印象的。「自由詩人/石川達三」「私」の友である詩人の「山名」は、人生を自由に楽し気に生きている。そんな彼に私はどうしても勝てない。三度目の結婚で子供が生まれ彼の上に変化が起こる。しかし、その先には・・。自由について考えさせられる一篇。
2024/02/15
神太郎
テーマに対しての作品のチョイスがミスマッチな感じも否めない百年文庫あるあるを感じながら。吉屋信子の作品はややホラー調。しかし、一番テーマに沿った内容かもしれぬ。山本有三の作品は就活生とかが読んだらどう思うだろうか。タイトルは「チョコレート」だが、甘いだけでなく少しほろ苦い。石川達三の「自由詩人」はまぁ、どうしようもない男とそいつをなかなか見捨てることができない私との関係性を描く。男の最期はそうなって当然とも思えるがどこか悲哀がある。テーマにそってないものもあるが、作品一つ一つのクオリティは抜群であった。
2017/12/13
鯖
石川達三「自由詩人」は昨今の児童虐待のニュースを思いだし、胃が痛くなる。サイダーに毒を盛り、死んでいく子どもから助けを求められた父親が「この子にとって私は神でした。神であることに私は耐えられない」と慟哭し自殺する。ケツから手つっこんで奥歯がたがた言わすぞクソが。一人で死ぬ分(ひとりじゃないけど)だざおのがマシだな…。いや創作物だということは分かってる分かってるんだが。他、吉屋信子「もう一人の私」夢幻秋露童女と戒名のみ知ってる双子の姉に、結婚式当日に旦那をNTRかけるSF、山本有三「チョコレート」の三篇。
2021/03/28
感想・レビューをもっと見る