(056)祈 (百年文庫 56)
(056)祈 (百年文庫 56) / 感想・レビュー
コットン
三者三様の『祈』が味わえる。チャペックの『祈』は自由があるようで実際は束縛された毎日の生活がじわーっと語られる。久生十蘭の『祈』が知らない面が浮き上がるように腑に落ちる点で一番面白かった。
2019/03/13
モモ
久生十蘭『春雪』若くして亡くなった姪の柚子。柚子を思い悔しい気持ちがあったが、思いもかけない柚子の真実の話があった。チャペック『城の人々』住み込み家庭教師のオルガ。盗人の疑いをかけられ我慢の限界で家に帰ろうと決意するも…。様々な人の思惑が渦巻く城の中。母からの拙い手紙にまた少しがっかりする様子がちょっと切ない。アルツィバーシェフ『死』森鴎外訳。死を恐れる見習士官ゴロロボフ。彼の死への恐怖を聞いているうちに、医学士ソロドフニコフも不安になっていく。夜明けの美しさが彼を救う。様々な祈りがつまった一冊でした。
2022/08/27
アルピニア
「春雪/久生 十蘭」主人公は夭折した姪「柚子」が哀れでならなかったが、久しぶりに再会した親友から彼女の秘密を聞かされる。秘めた情熱に圧倒される。「城の人々/チャペック 石川 達夫 訳」伯爵家で家庭教師として働く「オルガ」は、城の人々が嫌でたまらないが、辞めると言おうとしたその日、母から手紙が届く。この後、堕ちていきそうな彼女が哀れ。「死/アルツィバーシェフ 森 鴎外 訳」医学士であるソロドフニコフは見習士官ゴロロボフの死に対する真摯な思索と、ある決意を打ち明けられる。最後の朝の場面が生の喜びを感じさせる。
2023/01/27
神太郎
密かな祈り、夢への祈り、よく分からぬものへの畏怖から来る祈り。三篇にしっかりとしたテーマがある。『春雪』。初っぱなから心を持っていかれる。ミステリー要素もいれつつ語られるプラトニックな恋愛。良いじゃないか。『城の人々』では、辛いお勤めに仕事やめると願う、オルガ。そのチャンスが訪れるかに思えたが……。微妙な人間関係が実にリアル。『死』、鴎外先生は何でも訳されます。「死」とはいったいなんたるやという哲学めいた展開。作者は厭世的な見方が目立つが、「死」を完全肯定してる訳でもない。難しさの中に面白さがある作品。
2019/11/28
臨床心理士 いるかくん
3篇から成るアンソロジー。珠玉という名にふさわしいバラエティ豊かなアンソロジー。久生十蘭の「春雪」が圧倒的な出来栄えだが、アルツィバーッシェフの「死」も我々の心を直球で射抜く、驚くべき名品。
2014/02/19
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