花 (百年文庫 67)
花 (百年文庫 67) / 感想・レビュー
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
花曇りが続くなあ、と思っていたらとうとう雨が雪に変わっていたのでした。白いような透きとおる桃色のような花びらが夜の空気にとける満開の桜は、散ってしまうのだろうか、この雪のなかじっと耐えているのかしら。今年は少しさびしい桜の季節。 「巨勢山のつらつら椿つらつらに 見つつ偲ばな巨勢の春野を」葉桜の季節が過ぎれば汗ばむような陽気にとりどりの花が咲くだろう。隣の家の茉莉花、近くの野生のような薔薇は、なんという名前なのだろう、黄色がやわらかく美しい。思い浮かべて待ち望む。ほどければいい、蕾も世界も。
2020/03/28
新地学@児童書病発動中
花をテーマにした三つの小説。どの作品も素晴らしい。森茉莉の「薔薇くい姫」がたまらなく好きだ。天衣無縫に生きる文豪の娘と世間の折り合いの悪さが、ユーモラスで耽美的な文体で描かれる。片山 廣子の「ばらの花五つ」は短いけれど深い余韻の残る作品。作者の凛とした生き方が伝わってきて、こちらの背筋を伸ばしたくなる。城夏子の「つらつら椿」は和歌を効果的に使った作品。不器用に生きた父に対する作者の哀惜の念に胸がいっぱいになる。作中でさり気なく描かれる椿が、鮮やかな映像となって脳裏に刻まれた。
2017/04/16
アルピニア
「薔薇くい姫/森 茉莉」本人の心情を描いた一篇なのだろうか。一人前に扱ってもらえないことに対する憤りとともに、自分を客観視してクスリと笑う余裕も感じられる。「ばらの花五つ/片山 廣子」短い一篇だがとても印象に残る。なぜ題名には蕾ふたつをいれなかったのだろう・・。『詠嘆を捨てる』というセンテンスが戦後の心情を表しているようで胸に刺さる。「つらつら椿/城 夏子」読んでいて内容よりも文体に惹かれた。生き生きとした、それでいて端正な文章だと感じた。
2022/10/22
モモ
森茉莉『薔薇くい姫』森鴎外の愛娘・茉莉。モオパッサンに魅了され翻訳したり、本を出版する素敵な女性なのに、茉莉いわく「莫迦に見える」ため、人に子どものように扱われ、怒りまくる様子が可笑しい。自分の健康を支える柿の葉がなくなり、代わりに葉が食べたいと薔薇の葉を食べる薔薇くい姫の茉莉。他の作品も久しぶりに読みたい。片山廣子『ばらの花五つ』小さい利益と小さい損失を積み重ね育ててゆく仕事。城夏子『つらつら椿』姉の出生を巡る我が家の秘密。家のお金を散財する父だが理解する娘。女性作家による様々な世界観が見られる一冊。
2022/08/24
神太郎
「薔薇くい姫」は森鴎外の娘である茉莉の作品。大変愛でられて育ったがゆえに少し子供っぽいところもあり、「大丈夫かな?」と心配になる。自虐的にそこら辺を大いに上手く小説のネタとして描いてる。「ばらの花五つ」はとても短い。エッセイにも受け取れるが、日常的な感じが非常にグッド!最後の「つらつら椿」はこの中でも一番読みやすくてすんなりと入ってくるよい作品だ。父のもとを初恋の相手が訪ねてきて、自分の家族の秘密が明かされていく。和歌も効果的に使われていて美しい。女流作家ならではの柔らかさとしなやかさが良いアクセント!
2020/03/25
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