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水 (百年文庫 69)

水 (百年文庫 69)

水 (百年文庫 69)

作家
伊藤整
横光利一
福永武彦
出版社
ポプラ社
発売日
2015-01-02
ISBN
9784591121573
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水 (百年文庫 69) / 感想・レビュー

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モモ

伊藤整『生物祭』父が病気で亡くなりそうなとき、北国の春が始まった。春の真盛りのなか、父は死に近づく。描写が綺麗。横光利一『春は馬車に乗って』死にゆく愛する妻の世話を続ける夫。元気な時より病気の時の方が妻を近くに感じている様子に少し複雑な思いがする。福永武彦『廃市』かつて滞在した運河の町が火事で焼失したと知り、思い出す旧家の姉妹とその悲劇。姉妹は、お互いに気を使ったがために、悲劇がしのびよる様子が何とも言えない。もっと話し合えば良かったのに。どの作品も好みの描写。ひんやりとした水を感じる一冊でした。

2022/10/15

アルピニア

季節の流れに死が影を落とす3篇。「生物祭/伊藤整」死にかけている父と生気溢れる春の季節の対比が印象的な一篇。端正だとは感じるのだが、残念ながらあまり好きな文体ではない。「春は馬車に乗って/横光利一」死を目前にした妻との感情のぶつけ合い。気を許している者同士だからこそできるのかもしれないが、哀しい醜悪さを感じた。「廃市/福永武彦」主人公が論文作成のためにひと夏を過ごした水の都での出来事を回想する一篇。掘割と船の生活が情緒的に描かれている。姉妹と一人の男性をめぐる悲劇。私は妹に問題があったように感じる。

2024/01/18

桜もち

「こうしていつまでも暮せるものでないことは二人とも知っています。しかしそれでどうして悪いんです?」一緒にいるのも地獄、別れるのもまた別の地獄、ということがある。そういう人の言葉だと思った。滅びるまでの時間をただただ使い果たしていくだけの、水路が縦横にはしる古い町。なんだかこの世のものとは思われなかった。自分も、自分の愛する者も、愛していない者も、結局は時の流れの中に全て流れ去ってしまう。流れ去る寸前の、やけにスロモーで克明な一瞬を切り取った小品たちであった。『生物祭』、『春は馬車に乗って』、『廃市』。

2020/11/07

神太郎

前作の白にも通じる命を扱う作品が多い気がした。伊藤整の「生物祭」は死に向かいつつある父と自然の美しさの対比が何とも言えぬ味わいがある。横光利一の「春は馬車に乗って」は結核になった妻とのやり取りが何ともリアルで話に引き込まれてしまった。ラストはあの瞬間に妻がなくなったのか単に瞳を閉じただけなのか。想像させるラストだ。「廃市」は最初は主人公と民子の恋愛話かなと思いきやひと波乱あり、この展開は読めなかったな。葬式の場のやり取り凄まじい。ボタンのかけ違えというかなんというかその筆致にやられました。三篇とも良作。

2020/04/15

臨床心理士 いるかくん

3篇から成る短編のアンソロジー。タイトルは「水」だが、テーマは3篇とも『死』である。どれも優れた作品だが、私の好みは福永武彦の「廃市」。5人の人間関係が鮮やかに描き出される終盤の展開はさながらミステリーを読んでいるかのような滋味に溢れている。

2014/02/15

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